フランスで映画3本を同時公開する洪尚秀監督

 「洪尚秀(ホン・サンス)は、世界的な大監督になる運命を持って生まれ、アジアの新しい才能の持ち主だ。それだけでなく、洪尚秀は稀有な芸術家として、厳しいが正確で、驚くべき程に昔のものが好きな芸術家として注目されなければならない。洪尚秀は現代の恋愛やセックスの実態を、寂しいペシミズムの肖像として明瞭に描き、自身の表現道具を思想の形に変形させることができる芸術家だ」

 フランスの日刊紙「ル・モンド」が、26日付けで韓国の洪尚秀監督(42)を絶賛した。26日、洪監督の映画『豚が井戸に落ちた日』、『江原(カンウォン)道の力』、『オ!スジョン』が一挙にフランス国内36カ所の劇場で公開されることを受け、ル・モンド紙は、映画面の一面を割いて洪監督を特集した。

 過去に4本の作品しか発表していない海外の若い映画監督が、そのうちの3本をフランスで同時に一般公開するのは極めて異例なこと。

 ル・モンド紙は1面にも『豚が井戸に落ちた日』の写真と共に『洪尚秀-不可解な行動を扱う韓国の名人』という見出しで、読者の目を引き付けた。現在フランスで好評の映画『酔画仙』の林権澤(イム・グォンテク)監督に引けを取らない絶賛を洪監督に送った。

 同紙は洪尚秀映画の基本技法について「時間の解体を通じて合理性を脅かし、水平的な因果関係の鎖を垂直的な同時性と交織させる」とし、「洪監督の映画は単純な心理学の枠を越え、人間行動の不可解な無意味性を強調する映画的な現代性を見せている」と評した。

 韓国映画通でル・モンド紙の映画専門記者のジャン=ミシェル・フロドン氏が書いたインタビュー記事で、洪監督は、映画3本の同時公開について「嬉しいが、私は過去のことについてこれ以上は考えない」としながら、「私は自分の映画の専門家にはなりたくない」と淡々と語った。

 洪監督は自身の映画的テーマについて「現実は隠密で、仮説的で、不確実な要素の隙間にだけ姿を現わすようだ。私は常套性や固定観念、誇張された話を警戒し、例えば『現代韓国』と呼べるものが存在するとは信じない」と述べた。

 洪監督は23歳から米国で映画を学んだ。シカゴの美術館でセザンヌの絵を見ながらこう思った。「私は見る、そして考える。まさにこれだ」。こうして映画作家としての道を歩み始めた。

 しかし洪監督は「パリは映画愛好家たちの基準となる都市」としながら、「ロベール・ブレッソンの映画『田舎司祭の日記』を観た後、実験映画とハリウッド映画の間にある、役立たずの代案から脱する可能性が存在するということを悟った」とフランス映画から受けた影響を強調した。

 ル・モンド紙は実験的な洪尚秀映画が、韓国の評論家たちの全面的な支持を得て、徐々に観客を集め始めていると伝えた。

 デビュー作の『豚が井戸に落ちた日』(1996年)が5万人、『江原道の力』(1998年)が7万人, 『オ!スジョン』(2000年)が12万人をそれぞれ動員した増加傾向を紹介し、最新作の『生活の発見』は観客動員数18万人を突破したと伝えた。

 ル・モンド紙は洪尚秀映画の原動力として、同時代と現実に対する距離感を挙げた。たとえば韓国の若い世代が街中で軍事政権と衝突していた時代にも、洪監督はそうではなかったという意味だ。

 洪監督は「当時、私はうろたえ、自殺も考えた」としながら、「だが、あの時代の暴力的で理想主義的な雰囲気は消えない痕跡を残し、私の世代は大変だった半面、極端な活気に満ちたあの時代の消滅を多少残念とも思っている」と述べた。

 また、洪監督は「パソコンよりもタイプライターが好きで、ジェット機よりもヘリコプターが好きだ。私は同時代よりも過去の時代に最も近い」と語った。

 ル・モンド紙の洪尚秀監督特集記事の見出しは『洪尚秀は時間の糸を繊細にもつれさせてしまう』だった。

パリ=朴海鉉(パク・へヒョン)特派員

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