申鉉濬(シン・ヒョンジュン)ほど実際の姿とスクリーンのイメージが違う俳優も珍しい。千年の時を越え恋人を探し求めたファン将軍(『銀杏のベッド』)から悪霊を退治するヒョンアム(『ソウルガーディアンズ 大麻緑』)や高麗の剣客ジナ (『アウトライブ 飛天舞』)まで、無口なキャラクターとしてファンの印象に残っている。
しかし、実際には非常に気さくな人物だ。公開を控えた海洋アクション映画『ブルー』は、彼本来の姿を初めてスクリーンで確認することになりそうだ。
「あまりにも映画のイメージが強いので、初めて会う人には『場を盛り上げるために、わざと喋っているの?』と聞かれます。『ガン&トークス』で少し砕けたキャラを演じましたが、結構ファンに受けたんですよ。それで今回、思い切ってこの映画にチャレンジしてみようと思いました」
海軍の海難救助隊(SSU)を素材に、海軍将校たちの友情と愛を描いたこの作品で申鉉濬が演じた金ジュン大尉は、実際の申鉉濬の姿がそのまま重なる。
金ヘゴンがシナリオを手掛け、魅力的だが非現実的だった当初のキャラクターを申鉉濬に合わせて書き直したからだ。
この映画で申鉉濬は「カメラを回しておくからリラックスしてやれ」という李廷国(イ・ジョングク)監督の言葉通り、思い切り素顔を覗かせた。
イメージと違う姿のために初めは多少ぎこちなく感じるが、「お前、何てひどいことするんだ」と友人に向かって真剣な表情で言ったと思えば、急に「まあ、そんなこともあるよな」と言いながらこっけいな踊り(本人曰く「朴重勳(パク・チュンフン)踊り」)をするシーンは、新しいキャラクターに対する申鉉濬の確信を見せてくれる。
完成まで約4年の歳月がかかったこの映画で申鉉濬は多くの苦労をした。ダイバー訓練の時、水圧に適応できずに苦しい思いもしたし、ゴーグルの中に水が逆流して何度も死にかけたという。
映画史上初めて海軍の支援を得て、鎭海(ジンヘ)でロケが行われた『ブルー』は、実は申鉉濬と深い関わりがある。
申鉉濬は視力が悪いために兵役の免除を受けたが、父親は海兵隊の将校5期の職業軍人だった。
「父は時々『お前は金新朝(キム・シンジョ)に感謝しなければならない』と言います。母は金新朝事件の際、非常令が出て鎭海で勤務していた父と出会って私を授かったんです」
映画界に進出してもう13年になる申鉉濬は、最も記憶に残る映画に、思った通り『銀杏のベッド』を挙げた。「キャラクターも気に入ってましたが、撮影現場で初めて幸福を感じた作品」というのが理由だそうだ。
これまで強いキャラクターを演じることが多かった点については「人と違ったことをしたくて俳優になったが、そういう役柄が自分とかけ離れた世界の人物を演じる楽しさを教えてくれたから」と説明した。
申鉉濬は、共演した女優の中で沈銀河(シム・ウンハ)が最も印象に残っているという。テレビドラマ『1.5』で共演した時のことだ。トランクを手に帰国するシーンで、沈銀河は用意された小道具のトランクの中に入っていた服を全て取り出し、持参したものを入れなおした。閉じてしまえばわからないのに「自分の着ていたものを入れてこそリアルだから」とのこだわりからだった。
「全てをかけて撮影したので、最初の試写会の前夜は緊張してしまい、コンビニエンスストアでビールを買ってひとりで飲んだが一睡もできなかった」という申鉉濬は、「試写会の時にこれまでの出来事が思い出されて、涙が出ました」とも語った。
申鉉濬にこの作品と他の作品に対する思い入れの違いをたずねると、「本気で愛した女性と別れること」と、「1、2ヵ月仕事で知り合った同僚と別れること」の違いを例えた。
だが、人生の節目ともなり、新たな飛躍をもたらしてくれるのも「別れ」だ。『ブルー』を通じて申鉉濬は本気で愛した女性と別れる代わりに、新しい観客と出会うのだから。