「私は南北から見捨てられた」新作映画『『二重スパイ』

 「映画は一人の力で完成できるものではありませんから…」

 韓石圭(ハン・ソッキュ)は20日に行われた『二重スパイ』(24日公開)の舞台あいさつで謙虚にこう語った。しかしこの映画に熱い視線が寄せられているのは、紛れもなく韓石圭の3年ぶりのカムバック作品のためだ。長い空白だったが、韓石圭は最近、朝鮮日報が行ったアンケート調査でも、相変らず「観客動員力1位」を固守するだけのパワーを持っている。

 1980年、東ベルリン駐在の朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)大使館に勤務していた人民軍少佐のリム・ビョンホ(韓石圭)が韓国に偽装亡命する。韓国の情報機関で働くようになったリム・ビョンホは、3年後に定着スパイでラジオ局のパーソナリティを務めるユン・スミ(高素栄(コ・ソヨン))の放送を通じて初の指令を受け、活動を開始する。

 ビョンホは北朝鮮の体制に対する信念で最善を尽くすが、結局は南北両国から見放される危機に陥る。スミとの恋愛は、ビョンホをさらに混乱に陥れる。

 久しぶりに韓石圭の姿をスクリーンで観るのは、実に嬉しいものだ。ダイエットをしてさらにシャープな表情を作った韓石圭は、酷い拷問を受けるシーンや心の底から苦悩するシーンまで、一貫して熱演する。しかし壮大なストーリーの随所でクローズアップされるにもかかわらず、感興はそれほど湧かない。

 韓石圭の3年あまりの充電期間が、選択の機会を減らす方向に作用したということにまで考えが及んだとすれば、やはり俳優は常にスクリーンの中にいなければならないという基本に立ち返らされる。

 CMでは十分な関心を集めてきたが、スクリーンでは殆ど観客を感動させた事のない高素栄は、スクリーンデビューから久しいものの、相変わらずまだまだという印象だ。最後までぎこちない台詞まわしに終始している。

 この映画で最も印象的な演技は、熱い情熱を冷静な表情で覆って好演したチョン・ホジン(情報局長役)だ。


『二重スパイ』を観ての率直な感想は、重く、目新しさがないということだ。どちらの体制からも見捨てられた人物から時代の悲劇を読み取る作業は、すでに文学界では『広場』によって40年も前に終わっている。

 韓国映画に限って見ても、3年前に高い完成度で重いテーマを投げかけた『共同警備区域JSA』の牙城を崩すには程遠い。拷問シーンの破壊力は『ペパーミント・キャンディー』に及ばず、忠誠心を立証するため「自由大韓、万歳」と叫ぶシーンは、『共同警備区域JSA』の宋康昊(ソン・ガンホ)が生きるために「朝鮮民主主義人民共和国、万歳」と絶叫するシーンほど泣けない。『二重スパイ』はまるで骨組みだけの映画だ。

しかし、コメディ映画の量産に走る韓国映画界には、『二重スパイ』の存在は貴重だ。発作的なギャグや脈絡のないコントのような映画に浸っていると、ストーリーの力だけで引っ張る作品との出会いは驚愕でさえある。

 何度も急転するストーリーにもかかわらず、話の流れをスムーズに感じさせるシム・ヘウォンの脚本が秀逸だ。金ヒョンジョン監督は映画の核心となるモチーフをタイトルで明らかにしながら、叙事で真っ向勝負する気概を見せた。

李東振(イ・ドンジン)記者
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