彼女は2003年の新年初頭から、雪に覆われているカナダのロッキー山脈のある海抜3,500メートルの山岳地帯に向かう。
そして氷点下15度を下回る状況の中、2カ月にわたり約100人のスタッフと共に、国内初の山岳映画を撮影する。映画『氷雨』の女性監督、金ウンスク(33)氏だ。
すでに12月初めに国内分の撮影をスタートさせ、1月下旬にはロッキー山脈の奥地にあるカナダ・ユーコン州のホワイトホースに“出征”する。一寸先も見えない吹雪、数千メートルの氷の絶壁が彼女を待つ。
アイゼンとザイルに頼りながら危険な雪山を登ることも冒険だが、これまで韓国映画が開拓できなかった山岳映画の1ページを開くこの映画そのものも冒険だ。制作費だけでも約50億ウォン。女性監督としては初めて、韓国産ブロックバスターの指揮者となったこの女性監督は、意外にもこぢんまりとした体格に、やや低い声の持ち主だった。
「私の長い間の夢を実現することができ、本当にわくわくしている。出発の日が待ち遠しい」などといった“感想”は、インタビューが終わるまで彼女の口から出て来なかった。金ウンスク監督はとても物静かで、とても淡々としていた。
「緊張はしていません。2年という歳月をかけて『氷雨』を構想し、シナリオを書いたせいでしょうか。そのまま描きたい話を、私のスタイル通りにベストを尽くせばOKなんじゃないでしょうか」。
ひと際黒い彼女の瞳には、夢を掴んで見せるという強い眼差しがあった。一体、「私のスタイル」とは、どんなスタイルなのだろうか。
「今までに『K2/ハロルドとテイラー』や『バーティカル・リミット』といったハリウッドの山岳映画も観ましたが、ヴェルナー・ヘルツォーク監督の『彼方へ/ザ・クライマー』が最高ですね。登頂の過程で起こるアクシデントやスリルを娯楽アクション映画のように描きつつも、極限状態に置かれた人間の姿、大自然と人の話にフォーカスを合わせた映画だからです」。
映画『氷雨』の目標も人間や愛を新たに見出そうとする点にあるという。金監督は「死と向い合う登頂隊員2人が、胸に抱いていた雪花のように冷たく澄んだ愛を発見する物語」とし、「山岳映画であるだけでなく、ユニークなラブストーリーでもあります」と語った。
山とは一体どんな空間なのか。それは過去2年間、金監督の頭を離れなかった話頭でもあった。国内外の山岳家20人に会い、山男たちが書いた本も数多く読んでみた。息を切らせながら、何度も登山をしてみた。
「山に登って初めて知りました。山がなぜ人を惹き付けるのか。何よりも、他のことは全部忘れ、自分だけを考える空間、人生の本質的なものと面と向かう場所だった。それが真の自由なのではないかと考えました」。
金監督は応用美術を専攻した後、芸術総合学校・映像院1期として映画に入門した。
「私が作った短編映画の中で、自分の最も率直な気持ちを盛り込んで作ったのが『日曜日』でしたが、周りでもこれが最高作と言っています。結局、自分の本当の気持ちを盛り込んで作れば、心は伝わるのだということを学びましたね」。
金監督は『氷雨』に壮大さとともに、人生に対する“真実の心”を盛り込もうとしているという。
「韓国映画の大ヒットは増えているが、“上品な映画”は減っている」と話す。それは結局、『氷雨』をそのような面白さと深さを兼備した映画に作るという誓いのように聞こえた。金ウンスクは本当の高山と真っ向から勝負していた。