演出家のチョン・フン「ヒット曲でヒットミュージカルを作る」

 新年2日目の冷たい朝。彼は背丈が82センチにもなる愛犬と共に、インタビュー場所に現れた。にやっと笑う度に口から白い息を吐く。元気な男の“新年の計”を聞くのは楽しい事だった。演劇演出家のチョン・フン(38)。彼の今年のスケジュール表には『彼女は綺麗だった』という野心のミュージカルが記されている。

 このミュージカルは、朴ジニョンが歌った同タイトルの曲をはじめ、国内でヒットした歌謡20曲を、若い男女のラブストーリーで描く。 朴志胤(パク・チユン)の『Steal Away』 、g.o.dの『お母様に』、李文世(イ・ムンセ)の『早朝割引』、ブラウンアイズ、チョ・ソンモ、BoAのヒット曲も含まれる。

 チョン・フン作・演出、ミュージカル制作会社のSMCが制作し、今年の夏に大学路(テハンロ)のトンスンアートセンターで公演される予定。歌謡曲を扱った本格的なミュージカルは、韓国公演界で長年渇望されてきた。

 「ミュージカル市場がここまで成長したにも関わらず、心から楽しめる創作ミュージカルが一つもないのは、音楽自体が物足りないからです。海外では人気のポップソングにドラマを加えたりしますよね。韓国にもそういった素晴らしい曲が本当に多いんです。かなり以前から構想してきたことなんですが、ついにそれを実行する時が訪れたようです」


 英国のヒットミュージカル『マンマ・ミーア!』は、スウェーデンの人気グループ「ABBA」のヒット曲を用いて制作され、4年間に全世界で4億ドルの収入を得た。最近、英国のウエストエンドで話題を巻き起こしたミュージカル『We will rock you』も、70~80年代に絶大な人気を得たグループ「クイーン」の曲をベースに作られた作品。韓国でもこうした公演が必要だという話は以前からあった。

 高校時代にバンドを組み、クイーンの熱狂的ファンでもあったチョン・フンは「大衆音楽や劇作、演出のことをすべてよく知る私が、この仕事を受け持たなければならない」と少し鼻高々に語った。「飲み屋で、カラオケで、ワールドカップの応援で、人々が楽しく歌う曲の数々。それらに込められたこの時代に生きる姿を芸術として昇華させたい」

 チョンは自らを「マイナーとメジャーを同時に手がける演出家」と語った。ロシアのシェプキン大学で演劇修士号を修得し、97年に帰国後「テアトル・ノリ」というロシア劇専門の劇団を立ち上げた。

 2年前からは「アップルシアター」という劇団でスーパーリアリズム演劇を手がけている。しかし、それと同時に大手の公演企画社と手を組み、年に1、2回大衆的な作品を上演する。空前のヒット作『NANTA(乱打)』の97年初演を演出したのもチョンだ。

 チョンは「実験劇だろうと大衆劇だろうと、私は大衆に結果を見せるだけ」と語る。「芸術家の内面を表現しようと力むのは本当に嫌だし、難解なものを作って芸術だと言い張るのも嫌だ」と固く首を振った。

 「芸術家の魂?悩み?そんなものを大衆に見せる必要がありますか?モーツアルトの音楽は心地よいから聞くのであって、芸術家の魂など問題にしないでしょう」

 チョンが演劇界で注目されるのは、まさにこうした「マイナー」と「メジャー」の感覚を併せ持っているためだ。先月末から始まった小劇場ミュージカル『恋愛するために知っておくべきこと』は、インターネットで人気を集めた恋愛コラムから作り出された。

 「ビートルズもエルビス・プレスリーも、朴ジニョンも不世出の芸術家です。ベートーベンも今の時代に生まれていたら、バンドのギタリストだったかもしれませんよ」。実験劇を通じて得たものを大衆の好みに合わせて表現する。それがまさしくチョン・フンの追求する芸術であり2003年の演劇界の話題となる。

李ギュヒョン記者
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