陳腐な大統領のラブストーリー『ピアノを…』

 大韓民国の大統領が韓国映画の主人公として初めて登場した。安聖基(アン・ソンギ)が大統領を演じるチョン・マンベ監督の『ピアノを弾く大統領』(12月6日公開)だ。ハリウッドでは友人の妻と不倫をする米大統領を描いた『目撃』を大胆にも作ったが、韓国映画は大統領を扱った映画を制作することができなかった。

 ところが、『ピアノを弾く大統領』はたとえ“ハン・ミンウク”という名の架空の大統領であるとしても、国家の紋章を付けた黒塗りの防弾リムジンに乗って大統領府をさっそうと行く“韓国大統領”を描いた映画だ。それもある女性とのラブストーリーを描いたのは、新たな素材の開拓といえる。

 妻を失い、独身生活をしていた大統領ハン・ミンウク(安聖基)は、自分の一人娘の担任女性教師、チェ・ウンス(チェ・ジウン)の魅力ある姿に惹かれ、恋に落ちる。

 大統領の恋物語というものは、なぜこんなにも特別な好奇心をくすぐるのだろうか。何よりも最高権力者のオーラがもたらす緊張感のためだろうか。

 ところが『ピアノを弾く大統領』は、数々の場面でほのぼのとしている一方で、全体的には非常に物足りなさを感じさせる。大統領をあまりにも戯画化し過ぎているからだ。いくらコメディだからと言って、現実にない“人間味溢れた”大統領像を描こうとしたファンタジーだとしても、もう少し現実味のある大統領の姿を描かなければならなかった。

 コメディが現実を歪ませるものとはいえ、それは現実を十分に認識した後に解体、再構成した結果としてのものでなければならない。ところが『ピアノを…』は単純なドタバタ劇を描いた漫画のようだ。

 女性教師は教え子の父である大統領を学校に呼び出すと「娘が宿題をやらなかった」と激怒し、娘に代わって「黄鳥歌(ファンジョガ/高句麗時代の瑠璃王が詠んだ最も古い詩歌)100回書き取り」の宿題をしてくるように指示する。大統領が庶民の声を直接聞こうとタクシー運転手になってソウル市内を回るが、誰も大統領だとは気付かない。

 この映画のラブストーリーもやはり、斬新な想像力を見せるレベルに達することはできなかったようだ。SPを跳ね除けて二人だけの時間のために手を取り合って逃げ出したり、キスをしようとする度にしゃっくりが出る女性という設定のすべてが、どこかで一度見たことのあるエピソードだ。

 チェ・ジウンは大統領だろうが誰だろうが人目を気にしない女性というよりは、自らを「先公」と呼ぶほどに分別のない人物だ。ピアノまで習って今回の映画に臨んだ安聖基の演技には貫禄が感じられるが、雑なシナリオの中で苦戦を強いられていた。

 そのため『ピアノを弾く大統領』は、大統領という名前をタイトルにしたにも関わらず、男やもめの恋人探しを描いた、凡作のメロドラマレベルに止まっている。

金明煥(キム・ミョンファン)記者
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