切ない恋の色 『パイラン(白蘭)』の赤いスカーフ

 近年の韓国の商業映画のうち、ドラマの完成度においてトップに挙げられる秀作、ソン・へソン監督の『パイラン』(2001年)には、胸の張り裂けるような痛々しい恋をさらに切なくする小物が一つ登場する。

 チンピラの李カンジェ(チェ・ミンシク扮す)が、偽装結婚した「書類上の妻」パイラン(セシリア・チャン扮す)に渡した赤いスカーフだ。

 女は男を切なく愛したというが、2人は映画の中で1度も顔を合わせていない。スカーフもやはり、直接渡したものではない。当てのない中国女性 パイランが韓国に滞在するため、職業紹介所で偽装結婚の書類を作成していた日、書類上の夫になるために訪れてきたチンピラのカンジェが首に巻いていたのが、赤いスカーフだった。

 彼はルームメートから「すごいファッションだな」と皮肉を言われると、「あの女にでもあげちゃえ」と言って、投げ寄越しては行ってしまう。書類上の妻とは対面もせずに。

 無意味に渡したものが、一生忘れられない大切なものになることもある。異国の地で、自分と結婚してくれた男を本物の夫のように恋しがりながらありがたく思うパイランに、カンジェの赤いスカーフは男との関わりを感じさせる唯一の小物となる。

 カンジェのルームメートが出任せで言った「そのスカーフ、結婚記念のプレゼントだそうですよ」という一言を聞いてからは、なお更そうだ。

 苦しい生活の日々に、パイランが涙を飲み込みながらさするのは「夫 李カンジェ」の身元書類の中の赤いスカーフをしたカンジェの写真、そしト、彼がくれた赤いスカーフだ。

 生まれて誰一人からも愛されることがなかったカンジェが、初めて確認した恋しい相手が遺体となっている女性であることを知った時、胸の底から涙が込み上げてくる。彼を泣かしたのは、「私が死んだら、会いにきてくれますか?世界の誰よりも恋しいカンジェさん…」という手紙だけではなかった。

 無意味に寄越した赤いスカーフをきれいに首に巻き、自分をじっと見つめている遺影の中のパイランの顔だった。

 『パイラン(白蘭)』は全体的に重苦しいトーンの画面をベースとしているが、時に赤が色を添える。クリーニング屋の白い布地の上に、パイランが吐き出した紅い喀血、パイランが風に当たっていた仁川(インチョン)の砂浜の赤い旗、パイランが住んでいた部屋の赤い箪笥…。

 もちろん、『パイラン(白蘭)』の中のすべてのイメージの代表格は、赤いスカーフだ。

金ミョンファン記者
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