『死んでもいい』主演の老夫婦「天下をとった気分」

 老夫婦は写真記者がカメラを付きつける度に、笑いをこぼした。笑いの絶えない対話内容が気になった。側に近付いていくと、老夫婦が同じ言葉を繰り返しているのが耳に入ってきた。

 「笑わなきゃだめらしいですよ。笑いましょう、ハハハ…、ホホホ…」

 カンヌ映画祭への出品と映像物等級委員会が下した2回の「制限上映」の判定で、公開前からさらに有名になった朴ジンピョ監督の映画『死んでもいい』(12月6日公開)。この映画の「2人の主演俳優」との対話は愉快だった。

 23日に閉幕する第7回釜山(プサン)国際映画祭では国際批評家賞を受賞するこの作品で、夫の朴チギュ(73)さんと妻の李ジュンエ(71)さんは自分たちのラブストーリーを自ら演じた。

 お揃いの指輪をはめた老夫婦は、食事をする時も、一つのおかずを半分に分け、互いの口に入れてあげた。スジョングァ(生姜シナモンティー)を飲む時も、2人はグラスを合わせた。

 愛嬌溢れる妻と、そんな彼女が可愛くてしかたがないという表情の夫の間には、そう長い歳月が流れてはいない。

 「この人(妻)が初めて私にかけた言葉が、『誰と住んでるんですか』ということでした。一人なのかと再度聞いたんです」。


 昨年はじめ、城東(ソンドン)区の老人福祉館で初めて会った時、先に「プロポーズ」をしたのは妻の李ジュンエさんだった。「笑う時の口元があまりにも可愛かったため」だという。

 各自、配偶者を失って3~5年。「背が低く、体型の良い」李ジュンエさんを見てみると、自分の理想だったという。「あまり眠らなくても済む年齢」のため、午前6時に電話でのデートをしばらく続けた後、李ジュンエさんは朴チギュさんの家に移り住むようになったという。

 朴ジンピョ監督(当時仁川(インチョン)放送プロデューサー)が訪れ、ドキュメンタリーを撮ろうと言われた。朴監督はドキュメンタリーの内容を再び劇場用映画として撮影した。

 「天下をとった気分です。自分が出演した映画が劇場で上映されるとは。初めて提案された時に承諾したのは、私たちの愛を他の人に見せたかったからです」(朴チギュさん)。

 映画の中のベッドシーンが何かと問題になったため、デリケートな質問をせざるを得なかった。

 「私は負担を感じませんでした。自然に見せれば良いと信じていましたから。『なぜ自分の体や生活を隠す必要があるのか』、『夫婦生活を積極的にすれば良いではないか』と思ったんです」(朴チギュさん)。

 「恥ずかしかったですが、スタッフの皆さんや監督を信じていたので出来ました。後で映画を観た時には、初めは心苦しかったです。でも、何度も観ているうちに平気になりました。教育的にもいいと思います」(李ジュンエさん)。

 老夫婦は「映画を観る若者が両親のことをもう一度考える機会になってくれれば嬉しい」と語った。

 映画の中で、朴チギュさんが“情事”を終わらせる度にカレンダーに印を付ける。朴チギュさんは「実際にもそうなんですよ。予定を立てて、日付を確認した後、私が頑張ってもいい日が一目で分かります」と説明する。李ジュンエさんは「愛は心と体から一緒に湧き出るもの」という。朴チギュさんが隣で「体も本当に重要です」と強調する。

 「これ以上、体で愛せなくなったら?」と問い返すと、「その時は心で愛します」と答えた。すると李ジュンエさんが「昔の話をしながらね」と付け加えた。そして夫婦は、互いに握っていた手の上にもう片方の手をさらに重ねた。

 老夫婦は互いを“ダーリン、~ちゃん”と呼び合う。「冗談のつもりで一度“ダーリン”と言ってみたら、喜んでくれて」(李ジュンエさん)。

 朴チギュさんは「歳を取ってしまったのは残念だが、気持ちは新婚」としながら、「毎日が本当に楽しい」という。「映画を撮ったことだけではなく、この世に生まれたことも本当に幸せだと思う」と語る朴チギュさんの声は少し興奮して震えていた。

 何としてでもマスコミのインタビューから老夫婦を守ろうとした朴監督の気持ちが理解出来た。二人はもうこれ以上“話題の人物”ではない。つましく愛し合いながら生きていく多くのカップルのうちの一組に過ぎない。ただ少し歳を取ったカップルであるというだけだった。

 『死んでもいい』は“70代の老人の性生活を扱った映画”ではなかった。“最も楽天的な人生の賛歌”だった。

李ドンジン記者
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