「『夢遊桃源図』で恋する時の甘い苦痛を味わって下さい」

 「もう一度だけ、逢えないだろうか~。暗くて遠いところへと旅に出るあの人を、風よ、お前が守っておくれ」。

 11日午後8時、芸術の殿堂のミュージカル『夢遊桃源図』(芸術の殿堂のオペラ劇場/15日~12月1日)の稽古場。両目を失った夫 トミ(ソ・ヨンジュ扮する)が船に乗せられ流された後、妻のアラン(李へギョン扮する)は川辺に泣き崩れて歌う。

 宙に差し伸べた指からも「あ~あ~」と歌が流れているようだ。見守っていた演出家やスタッフも息を殺す。微かに震えていたアランの唇が完全に止まった時、音楽監督が叫ぶ。「1幕終わり!10分間休み!」。人々はやっと止めていた息を吐き出した。

 アランを演じている李へギョン(31)は床の上にそのままうつ伏せになっている。顔を上げると、眼には涙が滲んでいる。涙を見られたくないのか、急にピアノに前に行き、鍵盤を弾きながら言った。「もう~。音程を一つ間違えましたよ。私って本当に音大出たんですかね」。

 しばらくして、2幕も彼女の歌から始まる。「あなたの笛の音、どこで侘しく眠ってるのか~。あなたのいるところなら、どこへでも行く」。

歌い終わると、李へギョンは稽古場の隅に座っては、眼をこすりながら鼻をすすった。「俳優が泣いてしまうと観客が泣かなくなるので、感情を胸に秘めて客観的になろうとしている」と口では言うものの、既に自分の役にすっかりはまったようだ。

 今年6月に幕開けしたミュージカル『オペラ座の怪人』で、ヒロインのクリスティーンを演じた李へギョンは、新しいミュージカル『夢遊桃源図』では絶世の美女 アランを演じる。金ソンギョンとダブルキャスティングされ、20回のうち13回に出演する予定だ。

 国内ミュージカル史に残る『明成皇后』を制作した(株)エイコムが手掛ける『夢遊桃源図』は、悲しい恋物語だ。百済の蓋鹵(ケロ)王は夢の中で一夜を共にした絶世の美人と酷似しているアランを見つけ出すが、彼女は既に結婚した身。

 体を求めてくる蓋鹵王に、アランは自分の代わりに下女を寝室に送り込む。騙されたことを知った蓋鹵王は怒り、夫のトミの両目を刺し、体を縛ったまま小さな木船に乗せ、流してしまう。

 三国史記に登場する『トミ夫人説話』を元に、作家の崔仁浩(チェ・インホ)氏が書いた同名小説に、作曲家の金喜甲(キム・ヒガプ)、脚本家の梁仁子(ヤン・インジャ)氏夫婦が曲を付けた。

 李へギョンは稽古が終わり、芸術の殿堂を離れると、本来の明るい姿に戻った。1日中、稽古をして夜10時を回っているというのに、まだまだ元気が溢れる。

 「これは、最近ではめったに見られない純粋な恋愛物語なんです。稽古をしながらいつも涙を流しているんですが、同時にとても幸せです。恋の熱病にかかった時、このままずっとこの病気が続けばいいと思う時の幸せな感じ、それを観客に伝えたいです」。

 誠信(ソンシム)女子大学の声楽学科を卒業した1996年、ソウル市立ミュージカル団に入って以来、これまで一度も休んだことがない。演出家の尹浩鎭(ユン・ホジン)氏は「あれほどまでに、喉を使っているのに、未だきれいな声をしているのを見ると、生まれつきのミュージカル俳優」と話した。

 休む間もなく公演を続けることができたのは、明るい性格も一因だ。今年夏に出演した『真夏の夜の夢』は、観客が50%以下を下回ったこともあるほど、反応はあまり良くなかったが、その時もやはり幸せだったという。

 「あの時は、その代わりに出演した俳優たちととても楽しく過ごせたんです。私は常に歌って踊っているので、よっぽどのことがない限り、ストレスは受けませんね」。

 夫のオ・ジョンウク氏(32)も声楽家だ。彼女は「夫は劇中のトミのように純粋な人なんですが、女性は蓋鹵王のように野望のある男性にも魅力を感じると思います」と言って笑った。

問い合わせ:(02)780-6400

李ギュヒョン記者
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