『田園日記』で22年間夫婦を演じた崔佛岩・金惠子氏

 これから、私たちはいったいどこで「心の農業」を営めばよいのだろうか。

 しっかりとした存在感でもってお茶の間を掌握し、なくなりかけた現代人の故郷の役割を果してきた『田園日記』。

 過去22年間、分別のない都市化が数回もロケ現場を奪ったかと思えば、今度は、冷たい視聴率の論理がいっそ「ヤンチョン里」の存在そのものを“削除”しようとしている。

 『田園日記』が消えることになった。MBCは最近、視聴率や素材の枯渇などを理由に、番組の廃止決定を下した。抗議が殺到しているが、現在までは微動だにしていない。私たちが故郷に置き去りにした父や母、崔佛岩(チェ・ブルアム/62)、金惠子(キム・ヘジャ/61)の両氏は、涙を飲んで遠くで手を振っている。

 「幼いごろから、おじいさんが口癖のように『地を知ってこそ、まともな人間になる』と言っていました。しかし、今、都会の人々には自ら農業を営める土地などありません。だから、『田園日記』が大事だったのです。どんな悪条件にも負けずに、勝ちぬかなければならないのですが…」(崔)。

 「そろそろ潮時かなと考えたこともありました。しかし、いざ廃止の話を聞くと、自分の人生で最も大事だったものを手放すような気分になりました。この世に永遠のものはないと言いますが、最近の天気のように、気分が落ち込んでしまいます」(金)。

 先月31日、汝矣島(ヨイド)で会った両氏は長年の夫婦(!)らしく、気兼ねなどまったくなかった。両氏は60年代後半から多数の作品で、夫婦を演じてきた仲。

 映画『死んで烽「い』の等級判定をめぐり、子供のように口論をしたかと思えば、またすぐに雰囲気は落ち込んでしまった。




 崔氏はまず米国にいる友人の話を聞かせた。「自分は『田園日記』がなかったら財産が大幅に減っていただろうと言う。故郷の韓国を常に思っているという意味です。『今、故郷の空はこうなんだ』、『人々はこんな格好をしているのか』などと言いながらノスタルジアに浸ったと話しました。こうした在外同胞にとって『田園日記』は“生活のニュース”だったのです」

 金氏の『田園日記』の終了に対する考えは単純に視聴率の問題だけではない。「最近の韓国社会は、年配の方々を無視する傾向が強いじゃないですか。『田園日記』の終了もそういったことに当てはまるようです」。こう語った金氏が深いため息をつく。『田園日記』は最近の人々の話題から外され、都市的な性格の強い若者達の平凡な話がドラマ化されて『田園日記』独特の温かい情緒が希薄になり、視聴率低下につながったという話だ。

 崔氏もその意見に同意する。「父権が失われた最近の世相がドラマにそのまま反影されています。親の世代の心情をよく分からないためか、若い作家たちも父親の存在を認めないようです」。

 世の中の変化はドラマの展開にも現われた。毎回、崔氏が演技する金会長のエピローグでドラマを締め括った『田園日記』。どんな素材も金会長というフィルターを通して放送されていたのだ。ところが最近の金会長の台詞は「来るのか」、「おつかれ」程度が精一杯だった。それでも崔氏はドラマ中で部屋の上席だけは譲らなかった。

 二人にとって『田園日記』の22年間は、子供を育て、俳優としての経歴を積んだ壮年期の人生そのものだった。金氏は忘れることのできないエピソードとして電話が設置された日の話を挙げた。

 天国にいる母親に電話をかけて独り言を言うという場面だ。「実の母が亡くなってから間もない時でした。作家が出演者の気持ちを良く分かっていたのでそんな場面を入れたのでしょう。出演者、スタッフのみんながもう一つの家族と思っていました」。『田園日記』の終了で一つの時代に幕を下ろすのは、視聴者にとっても二人の俳優にとっても同じだ。

チェ・スンヒョン記者
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