「割れたガラスの上を歩くような感じ」。色で喩えるなら、と尋ねると「深緑を思い浮かべば良い」という。それも、あまりにも恍惚で息を飲むような緑色。
25日に公開された映画『中毒』の李炳憲(イ・ビョンホン)。事故後、兄の魂がのり移るテジン役を演じ、兄の妻ウンソ(李美妍(イ・ミヨン))と危険な愛を繰り広げる。あまりにも美しくて、観客を中毒にさせるような愛だ。
昨年2月に公開された『バンジージャンプをする』で観客や評論家らから絶大な支持を一身に受けた李炳憲は、忠武路(チュンムロ/韓国映画の中心地)で常に1位指名されてきた。ほぼすべてのシナリオを見てきた李炳憲が『中毒』を選んだ理由は何か。
「読んだ瞬間に感じることのできる作品が好きです。カラーのはっきりとした」
実は『中毒』は俳優にとっては多くのエネルギーが要求される作品だ。「演劇と同じ」という李炳憲の説明はまんざら嘘でない。テジンとウンソの家が主な舞台で、登場人物も少ない。限定された空間で2人の俳優が110分を導いて行かなければならない。観客を“中毒”にさせる自信がなければ選ぶことができない作品だ。
「体重を6キロ落として、カーレーシングの資格を取ることは何でもありませんでした」
さらに『中毒』の最後のどんでん返しは、全面的に李炳憲の演技にかかっている。李炳憲がキャラクターをどう演じるかによって、観客たちはいち早く最後のどんでん返しに気づき、あくびをしながら映画を見ることにもなり得るからだ。
しかし微妙な目の縁の震え、手の動き、そして深い眼差しは観客たちを最高の緊張状態に追い込む。映画全体に流れる妙な緊張感とちょっとした悲しみ。李炳憲でなければ表現が難しい複合的な演技だ。中でも病床にいる兄を見つめる瞬間の李炳憲の表情は圧巻。
李炳憲について『中毒』のイム・ヘウォンプロデューサーは「天性の演技者」と感歎する。「感情の起伏を等しく維持するのは不可能に近いことだが、李炳憲さんは上手くテイクごとに洗練された感情を導き出す」と評した。