演劇俳優の金知淑(キム・ジスク)さんは午前6時、ジョギングで1日を始める。歯を食いしばって2時間あまりをかけて、南(ナム)山の八角亭周辺の7キロを走る。
金さんは「私を新たに鍛えなければ、無料演劇公演もこれ以上続けられそうになくて、1カ月前からジョギングを始めた」と話した。金さんは高校を巡回しながら無料の演劇公演を3年間続けている。
2000年からこれまで、あわせて約90校で演劇公演を行ってきた。初年と今年は金さんの代表作の一つであるモノドラマ『ロージェル』を、昨年は『熱い海』を公演した。
金さんが高校を巡回しながら無料の演劇公演を始めたきっかけは、観客の伸びない演劇界の現実を肌で感じはじめてから。観客が入らないと、演劇作品は前倒しして幕を下ろしてしまう。このため、後輩の俳優だちが酒場で暴飲をしたり、苦しんでいる姿を見て、「このままではいけない」と考えたという。
その時から金さんは「高校生たちに演劇を味わせてあげよう」と考え、「未来の観客」の探しに出た。当時、多くの先輩が「防音施設も整っていない学校の体育館で、モノドラマのような難しい作品を演じては、体がもたない」として引き止めたが、挑戦してみることにした。
まず、自分の属した劇団「伝説」のメンバーを中心に、15人で構成された無料演劇公演チームを結成した。しかし、無料で演劇を行うことは、そう簡単ではなかった。相当数の学校が「生徒たちの勉強時間を取られてしまう」とし、冷淡な反応を示したという。
繰り返す説得の末、2000年6月、ソウル・キョンボク女子高校で初舞台を演じ、生徒たちから熱烈な好評を得た。金さんは「『演劇』という言葉に冷淡だったり、途中で逃げ出そうと後の席に陣取っていた生徒たちが大声で泣き出すほど、演劇に没入した」と話した。
噂を聞きつけた高校の教師たちが「うちの学校にも来てほしい」と要請、30校あまりで追加公演を行った。金さんは「生徒たちが『演劇はたいくつだとばかり思っていたが、金知淑さんの演劇を見て、考えが変わった』と話した時は、パワーと熱情が涌き出た」とした。
金さんは公演に止まらず、自分のホームページに寄せられた生徒たちの悩みを一緒に解決することもやっている。金さんは「来月の大学入試修学能力試験(日本のセンター試験にあたる)を終えた受験生たちに、新しい演劇を披露するため、今準備中」と話した。
しかし、無料公演チームを運営するのが、日増しに厳しくなっていくのが、金さんの悩みの種だ。「来年は生徒たちと一緒に演劇を作り、巡回公演をやってみたい」と話す金さんは、「でも、予算の問題があるので、希望通り行くかどうかは分らない」と話した。