「人間・金斗漢を演じたい」

 13日午前6時30分。夜が明けたばかりの早朝から富川(プチョン)市・上(サン)洞にあるSBSテレビの時代劇『野人時代』の野外セットは慌しかった。金ムオク、ムン・ヤンチョル、新馬賊、ムンチ…。1930年代の鐘路(チョンロ)一帯を支配した“無頼漢”たちが「内鮮一体」、「生業報国」といったスローガンの貼られた鐘路警察署前に集まってきた。その一帯はあっという間に修羅場と化した。

 “親分”金斗漢(キム・ドゥハン)は、その約30分後にロケ車の中でぐっすりと眠ったままロケ現場に着いた。白いセーターと短パン姿のアン・ジェモ(23)は、マネージャーが背中を叩いたりしてやっとのことで目を覚ました。駅三(ヨクサム)駅近くで行われた、映画『唯我独尊』の撮影を徹夜で終えたばかりだった。「すみません。もういらっしゃってたんですね。昨日、一睡もできなかったんですよ」という声が辛そうだった。

 ドラマ『野人時代』は最近、30%近くの視聴率を記録してトップの座に就いている。毎回行われる“無頼漢”たちの乱闘シーンは、男性視聴者の“野性”を刺激する。ドラマの中で青年・金斗漢を演じるアン・ジェモは、こうした人気の中心にいる。

 「アクションシーンのある日は、20時間以上も撮影します。だいたい1週間に1回のロケで体重が1キロずつ減っていきます。おとといの昼にはムンチ、夜には新馬賊との戦いがあって大変でした」

 短パンの下から覗かせたすねは一面傷だらけで、上衣を脱いでもあちこちあざで一杯だ。「それでも今のところは大きなケガをしてないので幸い」としながら「ある日、他の演技者の拳を間違って受けてしまい、鼓膜に炎症ができたせいで何ヵ月か苦労したこともある」と語った。

 演技の話になると真剣な口調に変わった。「“無頼漢”の金斗漢よりも“人間”金斗漢を演じようと努力しています。正直言って金斗漢は単純に義理があって、喧嘩の強い“ヤクザ”くらいにしか思っていなかったんです。ところが、今回のドラマを演じながら彼の『恨(ハン)』を悟ったんです。父親どころか母親や仲間まで日本の植民地支配のために失った“しこり”のせいでしょうか。鐘路の商人たちを守った“街の独立軍”になった背景には、こうした悲痛さがあると思います」。そのために豪快なアクションよりも、デリケートで弱い内面を表現するのがもっと難しいという。

 『野人時代』にキャスティングされた時、アン・ジェモは、金斗漢はとてもスマートな人だという話を聞いた。金斗漢の写真を見たのかと聞くと、「余裕のある感じの人でした」という返事が返ってきた。「リアルさも重要ですが、機転が利いて、聡明な金斗漢を新たに描こうという意図でキャスティングされたようです」


 現実のアン・ジェモも「怖いもの知らず」だ。暇を見つけては、龍仁(ヨンイン)サーキットでカーレースを楽しむ「スピードマニア」だ。昨春、レーサーのライセンスまで取得している。来年は先輩のタレント、李セチャンのレーシングチームに加わる予定だという。

 「水以外は、これといって怖いものはないですね。怖いもの知らずの金斗漢と共感するのにプラスになっていると思います」

 1996年、KBSテレビ・第1チャンネルの『新世代報告、大人たちは知らない』でデビューしたアン・ジェモは、同年代のタレントに比べ慎重だという評価を受けている。1999年、時代劇『王と妃』で、祖母の仁粹(インス)大妃に対する怒りと母に対する恨(ハン)を胸に秘めた燕山(ヨンサン)君の狂気を熱演、“材木”として注目された。

 「安聖基(アン・ジェモ・ソンギ)先輩のような“国民俳優‘になるのが演技人生の目標です。演技の流れを失わないよう、主演でない映画にも出演しています。やっとスタートしたばかりですから、一つの作品に対して責任を持つ俳優になるための準備過程だと考えています」

 アン・ジェモの俳優観は、一言でいって“プロとしての根性”。人気やカネに流されることなく、職業を持つ人として最善を尽くしたいという。この日午後、アン・ジェモは30人あまりのやくざから袋叩きにあうシーンを撮影した。脚本を見せながら説明をする彼の目に、冷気が漂った。一瞬、金斗漢を感じさせる。

 「一生懸命殴られなきゃ。視聴者が嘘っぽいと感じてはだめですからね。いや~、でも心配ですね。生まれて、そんなに殴られたことがないもんで…」。

チェ・スンヒョン記者
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