スクリーンの中では血も涙もない冷血漢のように見えた日本の映画監督、北野武氏がこの夏、100%変わった顔でスクリーンに現われる。『HANA-BI』で怒りに満ちた目をサングラスの裏に隠し、無言で相手を無惨にもつぶしていた彼を記憶するなら、この度韓国で公開される『菊次郎の夏』では、目が丸くなるはずだ。
監督兼主演を務めたこの映画で、北野氏は世間知らずのおじさんを演じる。おばあさんと一緒に淋しく暮らしていた9歳の少年がプー太郎のおじさん(北野武)とともに母を訪ねて旅に出るというロードムービー。
北野氏は依然として世のアウトサイドをうろつき、始終ぶっそうな表情で貫くが、今回は暴力や死ではなく、希望と夢を心温かく思い浮かばせる。そして何よりも、面白い。もしかすると、北野武の映画に暴力と並んで解け込んでいた天真爛漫、『ソナチネ』などでヤクザたちが遊ぶシーンで見せたユーモアが、この映画では前面に打って出たのかも知れない。
『菊次郎の夏』の韓国公開(8月30日)を控え、30日午後、日本東京で北野武氏のインタビューを行った。テレビでも、リハーサルなど全くせず、その度に思い浮かんだことで演技するというコメディアン ビートたけし(コメディーをする時は北野ではなく、ビートという名を使う)らしく、いかなる質問にも躊躇することなく、そしてウィット溢れる修辞法で答えた。
-従来の映画とはずいぶん違う感じがする。チャイコフスキーの交響曲のような古典に挑戦するつもりで撮影したと、どこかで聞いたが。
「これまで、みんな『HANA-BI』を私の代表作と言っていた。このままでは私の映画が生と死、暴力だけを探ると思われてしまうかと思い、自分のやっていなかった他の色彩の映画をやってみたくなった。この映画もやはり、シナリオなしで撮影した。もともと考えたのは、映画の序盤に子供が母親に会えて、後は一緒に遊ぶ内容にするつもりだったが、撮影しているうちにこうなってしまった」
-なぜ、母に会えない内容にしたのか。
「会わせてしまったら、その後の話をどうもって行くか、思い浮かばなかったからだ」
-この映画を観ていると、まるで大人たちがのんびりと夏休みを送っているような感じがする。
「大人にも子供にも、彼らが忘れてかけていた夏休みを思い出させてあげたかった。つまらない人生を送っている大人たちが集まって、子供をネタに遊ぶ物語だと思ってくれても良い」
-主人公の少年はあまりにも平凡で演技をしているとは思えない。
「30人あまりの子供が応募したが、そのほとんどがハーフのようできれいな子だった。最も日本人らしく、まったく可愛くない子をわざと選んだ。初めは可愛くなく思えても、映画が終わるごろには可愛いと思えるはずだ。そう思えるようにするのが映画の力であり、私の演出の力だ」
-あなたは暴力の描写で有名だが、この映画の中のコメディーにも暴力的な要素が盛り込まれているようだ。
「基本的にコメディーは暴力に近い。バナナの皮を踏んだとした場合、踏んだ人に取ってみれば悲劇だが、それを見る多くの人にはコメディーだ。笑いは葬式の途中にも発生する。悪魔的かつ暴力的なものがコメディーの中には確かにある」
-恋愛物を制作するつもりはないか。
「既にやっている。『菊次郎の夏』の後制作した『Doll』という映画で、日本の文楽という人形劇を真似て作った。愛と感動と涙の物語だ(笑)」
-ワールドカップ(W杯)で日本代表に勝負根性がないと批判したが。
「W杯を通じてアジアが世界に知らされた。それは韓国のおかげだ。日本代表は予選を通過しただけでもよくやったのだと思う。W杯期間中、日本にいる韓国人が怖くて、夜まともに外出もできなかった(笑)」。