このスターとのインタビューは、スターに対する一般的な期待を裏切った。郭[日景]澤(クァク・キョンテク)監督が意欲を持って作り上げた新作『チャンピオン』で主演した劉五性(ユ・オソン)。
韓国映画史上最高のヒット作『友へ/チング(日本公開タイトル『友へ/チング』)』で最も強烈なキャラクターを演じ、800万の韓国人を虜にしたこの男は、ひげの生えた顔に黒いジャケットを引っ掛けて現われては、たばこを吸い出した。11日夜、朝鮮日報とのインタビューに応じた彼にとって、新作を格好良く紹介することなど、関心外のことのように見えた。
『友へ/チング』がメガヒットを記録した直後から、彼のところにはシナリオが殺到した。しかし、彼はその全てを断り、郭監督を選んだ。これまでちょうど1年間、『チャンピオン』のことだけを考えてきたという劉五性に、「1年間、どうだったか」と初質問を投げかけた。
「もうへとへとですよ。1年間やっていたら、余力などありません。髪も剃ってしまいました」。返事は短く、笑みもなければ、言葉も少なげだった。記者がこれまで会った外国の俳優のうち、「2分質問」に「1分返事」で応じたロバート・デ・ニーロを連想させた。
一瞬「メガヒットの映画スター」に相応しい高姿勢かと思ったが、それは誤解だった。映画のために行ったボクシングの話をしながら、劉五性が「とても慎重で男らしく、ある境地に達した人に対して敬畏心を持っている」男だと思った。
-6カ月近くボクシングの練習をしたと聞きましたが。
「早朝の1時間目から5時間目まで、ストレートでやりました」
-何を訓練したのですか。
「ランニング、シャドーボクシング、縄跳び、ミット(親指だけが分かれているボクシングのグローブ)を打つ練習、パンチボール…」
-1日中、ボクサーとして数カ月間生活したわけですが?
「何も考えられませんでしたね。ボクシングのことも、映画のことも。ただ、この時間を何とか無事にこなすことだけを考えました」
-大変そうですね。
「炎天下でのことですから汗が、いや、汗でもなくて、水が滴れて…。体力的にも辛い時期だったので、『ああ、チクショウ、メガヒットを飛ばした他の人たちは楽に暮らしているのに、俺はなんであえてこんな苦労をしているんだろう』と考えたこともあった。でも、「いや、それでも私は生きてるじゃないか。誰かは打たれて死んだのに…」と考えると、辛いと思うこと自体、贅沢に思われました」
(彼は朝鮮日報のワールドカップ(W杯)特集のために、サッカースターと並んで韓国代表のユニフォーム姿でポーズを取ってくれと頼んだ時も、真顔で『どんなに苦労してやっと着れたユニフォームなのに、私が着てポーズを取るなどできるはずがない』と、頑として断った)。
「ボクシングの試合を撮影する時、グローブで殴られると顔が腫れると聞きましたが…」と質問すると、やはり、同じ雰囲気の短い返事を投げよこす。「それは、俳優ならいつものことだから、今更話すことでもないし…」
-『チャンピオン』はどんな映画だと思いますが?
「ボクシング選手としての金得九(キム・ドゥック)の話しではなく、人間としての金得九の姿を描いた映画です。先輩たちの世代が辛い時代を行きながらも手放さなかった希望、熱情があります」
『友へ/チング』がメガヒットを記録してから、俳優人生で何が変わったかと聞いた。「有名になったからどうとか、そんなのはありませんよ。私の俳優人生はそのままです。観客と率直に向かい合っているかが大事であって、人気が上がったからといって格好つけることもありませんし」
続く劉五性の乾き切った返事に、隣で聞いていた映画会社の広報担当者が少し、不安な表情をした。その不安を劉五性の最後の言葉が吹き飛ばした。
「作品に不安があれば主演俳優がメディアとのインタビューであれこれと、長く話をするんですが、私はこの映画に対して長ったらしく話すことありません」。