『オアシス』撮影中の李滄東監督「ハッピーエンドに…」

 「さあ、撮影に入ります。時間がない!早く動いて!」

 19日の日曜深夜3時、ソウル清渓6街の高架道路。李滄東(イ・チャンドン)監督は100台あまりの車と80人あまりの撮影スタッフらをハンドマイクで指揮してアスファルトの上で夜を明かした。新作『オアシス』(イーストフィルム制作)のハイライトシーンの撮影。高架道路の約600メートル区間の2車線は5時間に渡って、全面通行止めになった。

 まるで深夜の特攻作戦のようだったこの日の撮影は、韓国映画界の慣行に照らせば正に一つの“事件”だった。警察庁の全面協力を得て、都会のど真ん中でS面通行止めをかけ、映画の撮影が行われたのは今回が初めてだったからだ。

 交通を優先させるのか、文化産業を優先させるかで、ソウル市と警察の間で意見の差を見せているという話が出るほど問題となった市街地での撮影は、新たに発足したソウル映像委員会等の努力によって、紆余曲折の末にようやく許可が下りた。スタッフらは夜明けの高架道路を忙しく走り回り、警察のパトカー1台と警察官10人あまりが出動して現場の警備に当たった。



 『オアシス』は薜景求(ソル・ギョング)が扮する前科者の男と、ムン・ソリが扮する重度の脳性麻痺障害の女性とのラブストーリー。19日の深夜に行われた撮影は恋人とのデートシーンだった。男は障害者の女性と一緒に食堂に入ろうとしたが、店の主人に入店を拒否され、近くの車の修理屋に止めてあった車に乗って、渋滞している高架道路の上で女性を車の外に引っ張り出して踊り出す。「現実から疏外された男女が、世の中に対して大声で訴えているような踊り」と監督は語った。

 『オアシス』は誰もが愛とは認めない二人だけのラブストーリーだ。その中には私たちが美しいとは思えないような面で、愛の本質や美しさ描こうとする監督の内心が窺える。デビュー作『グリーンフィッシュ』(1998)と『ペパーミント・キャンディー』(2000)の2作の秀作を通じて、現実と社会を残忍なほどに生々しく表現するリアリズム的な視線と観客の感情を揺さぶる、優れた感覚を見せてくれた監督が、今回はラブストーリーに挑戦する。

 ロケ現場近くの食堂に場所を移して行われたインタビューで李監督は、終始笑顔を絶やさず答えてくれた。「私はラブストーリーを扱った映画はよく見ませんが、最も作りたいジャンルがこのジャンルでした。人間の感情の中で最も本質的なのが愛ですが、私は小説を書く時も愛の話をまともに扱う事が出来なかったんです。実は個人的には『グリーンフィッシュ』や『ペパーミント・キャンディー』もラブストーリーにしようかと考えていたんです」

 タイトルの『オアシス』は「不毛な社会にはない、あるもの。あると思っていたのに、行って見るとなかったりするファンタジーのようなもの」としながら「愛ってそんなものじゃないですか?」と監督は説明した。

 『オアシス』の中で描かれている愛を見ると、胸が張り裂けそうになる。しかし監督は「登場人物は同情をするような人間ではない」と言う。「恐らく私の映画の中では最も明るい内容の映画となるでしょう。

結末もハッピーエンドだし、『それでもやっぱり、生きてみる価値があるじゃないか』と問い掛けながら幕を閉じるからです」

金明煥(キム・ミョンファン)記者
<記事、写真、画像の無断転載を禁じます。 Copyright (c)Chosunonline.com>
関連ニュース