「ドイツ・オペラ」ソウル公演を控えた申英玉

 “世界的”という修飾語が付くソプラノ歌手が、最もためらいそうなオペラの配役は?恐らくモーツァルトのオペラ『フィガロの結婚』の主人公「スザンナ」だろう。浮気者アルマヴィーヴァ伯爵の邪魔を押し退けて、愛するフィガロと結婚するためにスザンナは終始一貫して舞台を縦横無尽に駆け回る。

 レチタティーボ(recitativo/歌よりも台詞に重点を置いた叙唱)が多いため、他の歌手との呼吸が特に重要で、リハーサルに多くの時間を費やさねばならない。

 それに加えてアリアは中低音が大部分を占めるため、リリック・コロラチュラの技量を十分に発揮することもできない。しかし、韓国が生んだディーバ(オペラの女神)申英玉(シン・ヨンオク)は、ドイツの「ドイツ・オペラ・ベルリン」オペラ団の来韓公演『フィガロの結婚』(21、 23~25日午後7時30分/芸術の殿堂オペラ劇場)に際し、難しいスザンナ役を躊躇なく選んだ。

 「はじめは正直言ってためらいました。韓国ではリサイタルをよく行いましたが、オペラは93年の『ランメルモールのルチア』以来9年ぶりなんですよ。ジルダ(リゴレット)やルチアのような比較的慣れた役で韓国のファンに再びお会いしたかったんです。しかも、スザンナは89年にイタリアのスポレートで行われたフェスティバルでメノッティ監督の演出で舞台に立って以来なんです。でも、オペラ歌手、申英玉の姿を韓国の舞台で見せたいという願いが、ためらいよりもずっと大きかったんです」

 今月3日、米ボルティモア公演を最後にルチアを演じ切った申英玉は、すぐにスザンナに成り切るため全力を注いだ。そして今月10日からスタートした「ドイツ・オペラ・ベルリン」オペラ団のベルリンでのリハーサル。

 申英玉は時差も克服できない状態で、練習を強行したために非常に疲れているが、舞台に上がった瞬間、全身でスザンナの才気煥発としたオーラを発散する。演出家の故ゲッツ・フリードリッヒはスザンナに対して非常に動的な演技を要求していたが、申英玉の体を張った演技がオーラを放つ。

 「練習にはとても満足しています。アンサンブル・システムでしっかりとした技術を兼ね備えた歌手が多いので、すぐに呼吸が合いました。リラックスした雰囲気なので、演技も自然に演じられます。特に伯爵夫人役のロシアのソプラノ歌手マリア・メショリアコワとは相性がぴったりで、とても楽しいです」

 謙遜して他の歌手を誉める申英玉だが、実際にリハーサル舞台の雰囲気を和やかにしているのは彼女だ。フリードリッヒに代わって演出を務めるゲリンダ・ペルコブスキーは「申英玉こそが、私たちのエネルギーの源」と話す。

 自分の練習時間が終われば、すぐに席をはずす他のスターたちとは異なり、最初から最後までリハーサルに参加する誠実さ、ハードな練習に疲れた仲間たちにお菓子を振舞うなどの心遣い、何よりも体当たりで配役にベストを尽くすプロ精神。「ドイツ・オペラ・ベルリン」の来韓公演『フィガロの結婚』の真の花は、まさしく韓国が生んだディーバ申英玉だ。問い合わせ(02)780-6400

ベルリン=チン・ファヨン/音楽コラムニスト

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