ふと眺めた窓の外は、雪が降っている。真っ白な服に着替えた世界を見ていると、いっそう懐かしい気持ちになる。新年には混雑したスキー場ではなく、静かな雪国でワクワク気分を味わうのはいかがだろう。
ぼたん雪の降る昨年12月の終わりに、雪景色が最も美しいといわれる慶尚北道奉化郡の「承富駅」に向かった。
承富駅は車でアクセスしにくい山奥にあるため、ソウル市内の清涼里駅から嶺東線に乗った方が便利だ。1999年..
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ふと眺めた窓の外は、雪が降っている。真っ白な服に着替えた世界を見ていると、いっそう懐かしい気持ちになる。新年には混雑したスキー場ではなく、静かな雪国でワクワク気分を味わうのはいかがだろう。
ぼたん雪の降る昨年12月の終わりに、雪景色が最も美しいといわれる慶尚北道奉化郡の「承富駅」に向かった。
承富駅は車でアクセスしにくい山奥にあるため、ソウル市内の清涼里駅から嶺東線に乗った方が便利だ。1999年から観光客向けの雪見列車が運行されており、車で移動するより楽で趣もある。ガタンゴトンと左右に揺れながら真っ白な世界を走り抜け、列車は承富駅に着いた。
「何か見所でもあるのかと思って来たのなら、大間違いですよ」
列車を降りて、駅で周辺に名所があるかと尋ねると、キム・ジンヒ駅長はこう答えた。え、そんな! 記者が戸惑った表情を見せると、駅長は「ここは楽しむために来る場所であって、見所があるわけではないんですよ。ゆっくり歩けば分かってきますから、とにかく行ってみてください」と言って笑顔を見せた。
駅長の言葉通り、承富駅周辺にいわゆる「見所」はない。おいしい店もなければ、特別な体験のできる所もない。駅には待合室もないという有様だ。だが承富駅には特別な何かがある。この特別なものは、駅舎を出てゆっくり歩いていくと、自然と分かってくる。
欲を捨てて周囲を見渡してみると、ようやく自然の景色が目に飛び込んできた。そして、その自然の中で自由が感じられた。一瞬たりともじっとしていられずスマートフォン(多機能携帯電話端末)に目をやる日常とは、全く異なっている。こんなにゆったりとしたのは、いつ以来だろう。
「ギュッ、ギュッ」。周囲が静かなため、雪を踏みしめる足音が大きく耳に響いてくる。駅前には凍り付いた洛東江の景色が広がり、遠くの山々は真っ白な雪で覆われている。承富駅は、見る物全てが「自然」だった。
雪を楽しむといえば、普通はスキー場やそり乗り場に行くものだが、ここ承富駅では本当に「雪」そのものを楽しむことができる。
承富駅周辺で雪景色が最もよく見えるのは「栄岩線竣工(しゅんこう)碑」のある場所だ。駅から承富村方向に50メートルほどの所にある。
この小高い丘からは、雪に覆われた承富駅周辺の景色や遠くに見える山々、そしてトンネルを抜けて走る列車が一望でき、まるで一枚の絵を鑑賞しているような気分になる。
竣工碑の所から鉄橋を見下ろすと、ちょうど列車が走ってきた。午後に承富駅に到着した観光列車からは、ソウルや首都圏からやって来た数十人の乗客が降りた。列車を降りた人たちは、駅前に広がる一面の雪景色をカメラに収め、雪合戦を楽しんだ。
雪の楽しみ方は人それぞれだが、誰もが同じように写真を撮る場所がある。それは承富駅の石碑だ。かつての駅長が書いたという石碑には「空も3坪(約9.9平方メートル)/花畑も3坪だけれど/嶺東の心臓で/輸送の動脈だ」という文言が刻まれている。石碑の前で写真を撮った観光客たちが、それぞれに空を見上げるのも面白い。
この「3坪の空」の石碑の横には、小さなモミジの木が1本植えられている。この木には男女にまつわる逸話がある。
1970年ごろの話だ。江陵で働いている栄州出身の男と、栄州で働いている江陵出身の女がいた。二人は日曜になると、すれ違う2本の汽車が承富駅に同時に止まるわずか5分の間に、切ない愛を確かめ合った。だが炭鉱で働いていた男が事故で命を落とすと、ほどなく女も病気を患いこの世を去った。このとき2人の霊を慰めるために駅員が植えたモミジの木が、今まで残っているのだという。
一面の雪の中で時のたつのも忘れて過ごしていたが、気付くと列車の時間が迫っていた。観光客たちはモミジの木に、永遠の愛を誓うという意味の「愛の南京錠」を掛け、列車に乗り込んだ。
韓国鉄道公社(KORAIL)では12月から2カ月間、承富駅までの「雪見列車」を運行している。詳細はKORAILのホームページに掲載されている。
チョソン・ドットコム/朝鮮日報日本語版
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