彼の料理には物語がある。黄色い月の色(マンゴソース)、波打つ海(青海苔のソース)の向こうには3匹の蟹(天ぷら)が這い、厚い苔(緑茶の粉をつけた豚バラ肉焼き)に覆われた岩(皿)の間では白いススキ(サラダ)が揺れている。
「その年に収穫した果物にその年の日記が記録されているように、料理には作る人の思いと考え方、これまでの人生の歩みがすべて盛り込まれている」と信じる料理芸術家のイム・ジホさん。
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彼の料理には物語がある。黄色い月の色(マンゴソース)、波打つ海(青海苔のソース)の向こうには3匹の蟹(天ぷら)が這い、厚い苔(緑茶の粉をつけた豚バラ肉焼き)に覆われた岩(皿)の間では白いススキ(サラダ)が揺れている。
「その年に収穫した果物にその年の日記が記録されているように、料理には作る人の思いと考え方、これまでの人生の歩みがすべて盛り込まれている」と信じる料理芸術家のイム・ジホさん。
「五感で楽しむ料理パフォーマンス」でも有名なイムさんが、12月1日から2週間、ニューヨークの国連本部で特別なフェスティバルを繰り広げる。
「国連が主管する世界料理フェスティバルの一環です。1年間行われてきたフェスティバルの最後の2週間を韓国が飾ることになりましたが、なぜか私が代表走者として出場することになりました。いつもそうしてきたように、自然を素材にした料理で、韓国のオモニ(お母さんの意)の内面的な愛、忍苦の人生がにじみ出ているような料理を紹介したいと思っています」
「母の献立」は普段もイムさんのレストランを訪れる顧客に出している料理だ。オシドリが好んで食べるという碧梧桐(Chinese parasol tree)の実の料理をはじめ、カボチャとキビの蒸し料理、蓮根のワイン煮、蟹のチーズ蒸し、胡桃の串焼き、新芽のサラダなど、芸術作品なのか料理なのか分からなくなるほど真心のこもった創作料理の数々。
これに木の樹液を使った香りご飯とキビご飯にツルニンジンのチャンアチ(醤油や味噌で漬け込んだもの)、安東(アンドン)産の牡蠣の塩辛、アルタリ(小さな大根)キムチが添えられる。
幣帛(ペベク、婚礼の際新婦が舅姑との初対面の儀式で贈るナツメ、干し肉など)料理の専門家であるチェ・ユンジャさんと同行したのは、「デザート」のためだ。
「ケーキとコーヒーの代わりに、カボチャのシッケ(発酵させた甘酒の一種)とチョルピョン(白餅に花などを型押ししたもの)の盛り合わせ、オクチュン(砂糖の一種)餅、水正果(スジョンガ、煎じたショウガ汁にはちみつや砂糖を入れ、干し柿、松の実などを入れて冷やした飲み物)など、どの国にも真似できないような韓国のデザートを自慢するためです」
6歳で家出、ラーメン屋、中国料理店、料亭などで雑用をしているうちに料理に魅了され、サウジアラビアの建設現場でコック長までしたというイムさんの前歴は有名。
独学で料理を学び、現在は京畿(キョンギ)道・楊平(ヤンピョン)に自分の号である「サンダン」という名の店を構えることになったイムさんは「毎日のようにほとんど何も食べられなかった時代、そして正規の教育を受けることができなかったことこそ、私の人生の大きな幸運」と話す。
歳月のせいか、即興で木から葉を取って飾ったり、蝉の抜け殻、鶏の排泄物を使って“食べられる”料理を作ったような情熱は今では少し衰えた。その代わり、余裕と年輪がそれに取って代わった。
日曜日には必ず店を閉めているのもそのためだ。「儲けすぎると人間が駄目になる」と笑うイムさんは、特別に用意したご馳走を手に、週末になるとお腹をすかせたお年よりや子ども達、山寺の僧侶などを訪ねる。
だからといって裕福なわけではない。ある従業員は「平日でも席がないほど込み合いますが、メニューの値段の50%以上を材料費にしている方なので、利益はほとんどない」と話す。
「料理はその民族の心であり、最も良い食べ物は自然」と話すイム・ジホさん。
「韓国の伝統料理は自然がくれた“実”に少しのエネルギーを加えた後、再び自然にまかせて完成させるものであるため、淡白で癖がなく、刺激的でないのが特徴だが、外国人にその深さと味を感じさせることができれば自分の役割を果たしたことになる」
イムさんはこの言葉を残してニューヨークに向かって出発した。
金ユンドク記者
朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
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