K-POP
英テレビ視聴者が心躍らせる防弾少年団の舞台裏に「ある韓国人女性」の存在
先月30日、英ITV放送の人気オーディション番組『ブリテンズ・ゴット・タレント』(BGT)準決勝の生放送。ステージのピンク色の街灯がともると防弾少年団(BTS)が登場し、大歓声が上がった。パステルトーンのスーツを着たメンバーたちがこん身のパフォーマンスを繰り広げるバックに、星が輝く夜空、夕日、きらびやかな太陽と幻想的な場面が流れる。毒舌家で有名な審査員サイモン・コーウェルがスタンディングオベーションを送ると、ステージは再び熱くなった。ポップスターの聖地「ウェンブリー・スタジアム」公演の二日前に繰り広げられた熱い「前哨戦」だった。
英国のファンをメロメロにした防弾少年団のステージが成功した裏には、もう1人の韓国人がいた。英バラエティー番組専門の舞台美術監督キム・ネジン氏(46)だ。「ありがたくて胸がいっぱいです。英国では熱狂したり歓声を上げたりするファンが珍しいので、ステージ内外で街をときめかせる応援を聞いて戦慄(せんりつ)を感じました。制作スタッフも『防弾少年団がこれほどだとは。すごい』と驚いていました」。
キム・ネジン監督自身も防弾少年団のステージを作ることになるとは思ってもいなかった。2015年にBGTの決勝ステージまで担当したことはあるが、フリーランスとして活動しながら別の有名オーディション番組であるITV『Xファクター』、BBC『ザ・ヴォイス』、同じくBBCのオーケストラ・コンテスト番組『オール・トゥギャザー・ナウ』などの舞台美術を総括している時だった。先日はイスラエルのテルアビブで開かれたヨーロッパ最大の音楽フェスティバル『ユーロビジョン・ソング・コンテスト』のステージを手がけた。「知り合いのレーベル関係者が『防弾少年団のステージがある』と連絡してくれたんです。当然のことながら『イエス(Yes)』と答えました」。キム・ネジン監督に与えられたのは約2週間。動線チェックのためミュージックビデオを数十回繰り返し見た。テレビ番組のステージは、カメラの目を通して見るため、小さなスペースを最大限広く見えるように奥行きを生かしながらも、ダンスの動線を妨げないことが重要だ。童話のようなイメージを生かそうと街灯を立てることにし、ロンドン中を歩き回って見つけてきてを1本1本塗装した。
英国最高の音楽番組・オーディション番組のステージを手がけているキム・ネジン監督だが、もともとは演劇科の学生だった。中央大学演劇科に2年通い、舞台美術に夢中になって、英ロンドン芸術大学のセントラル・セント・マーチンズで舞台デザインを専攻した。「『シェイクスピアの国』で演劇の心臓部に触れているという快感はありましたが、それと同時に限界もありました。実験的なことを試みようにも、古典的な舞台は私にとってあまりにも難しすぎました」。
未練を断ち切ったのは正解だった。テレビ番組のステージに目を向け、キングストン大学でテレビ・映画舞台の修士課程を終えた。2004年のITV『ポール・オグレイディ・ショー』を皮切りに、少しずつステージの仕事を覚えていった。「生放送のオーディション番組をやってみると、締め切りのプレッシャーが喜びに変わりました。誰が脱落するか分からない状況で、1週間のうちに空虚なセットに命を吹き込むような、魔法ではない魔法をかけられるようになりました」。番組を手がけるうちに、ポップシンガーのジョン・レジェンド、ビヨンセ、ブラック・アイド・ピーズ、カイリー・ミノーグら大物スターたちのステージも手がけるようになり、自信がついた。
フリーランスなので「来週は仕事があるのかな?」と心配したことも多い。しかし、多彩な色合いのオブジェや余白の美、極力抑えた線と幻想的な映像美を武器とするキム・ネジン監督のステージに観客は惜しみない拍手を送った。「2013年ごろ、英国最高の人気オーディション番組『Xファクター』から電話が来た瞬間、分かりました。もう食べることの心配はしなくてもいいって!」と笑った。
キム・ネジン監督は防弾少年団を遠くから見ていたという。「スターを迎える」ということで英国側の警備は相当なものだったそうだ。「その代わり、手がけた画面が永遠に残るじゃないですか。ポップカルチャーのど真ん中で韓国人が手がけたステージに、韓国人が立つのを見る日が来たことだけでも一生忘れられないでしょう」。