「獣たちと生き残ろうといきり立っていた現場から穏やかな安息の地にやって来た感じ」。1月23日、女優キム・ヒャンギとの共演はどうだったか尋ねると、俳優チョン・ウソン(45)は少々大袈裟な身振りで「ヒュー」と息をつき、ことさらに安堵の表情を浮かべた。

 一時は骨太で男性的な役ばかりを演じてきたチョン・ウソン。昨年公開された映画『人狼』(キム・ジウン監督)では特機隊の隊員チャン・ジンテ、一昨年公開された『鋼鉄の雨』(ヤン・ウソク監督)や『ザ・キング』(ハン・ジェリム監督)、2016年公開の『アシュラ』(キム・ソンス監督)では、北朝鮮の最精鋭要員や権力に酔った検事、強力係(凶悪犯罪班)の刑事を演じた。いずれも、よろいでも身に着けているかのような、がっちりと緊張感で武装したキャラクターだ。「全くもって自由じゃありませんでした。強く見せようとして内心を隠すキャラクターばかりだったので」。チョン・ウソンは当時を振り返りながら、くすっと笑った。

 2月13日公開の映画『証人』(イ・ハン監督)では、だいぶおおらかに、ソフトになった。同作では「民主社会のための弁護士会(民弁)」出身で大手法律事務所の弁護士ヤン・スンホを演じ、事件の唯一の目撃者で自閉症を患っている少女ジウ(キム・ヒャンギ)を法廷に立たせようとする。障害がある少女の話を陪審員と判事は真剣に聞かないだろう、という考えから出た行動だ。ヤン・スンホはジウの学校の前まで毎日プレゼントを持って訪ねていき、冷たかったジウの態度は時が経つにつれ次第に軟化していく。

 チョン・ウソンは「力強く骨太な演技をするときより、強烈な感情を演じなければなりませんでした」と語った。「ジウには障害があるので、普通の人とは話し方がちょっと違うじゃないですか。そのせいで予想外のリアクションが飛び出すことがあって。それを逃さないようにしました」

 

 劇中、ヤン・スンホはしゃれたスーツに弁護士バッジを付けて恰好をつけるが、だからといって気に障ることはなかった。出世のため、時には上司が注いでくれたウイスキーを一気に飲み干してぺこぺこしたり、民弁の同僚スイン(ソン・ユナ)に「現実を直視しろ」と語ったりもするが、ヤン・スンホには思いがけない隙や間の抜けたところもある。ぽたぽたと滴り落ちていた水滴がどっと流れ出すように、「隙」を広げるキャラクターこそジウだ。「純粋な力がジウにはあるので。人生はしばしば、極めて些細なことでも方向がおかしくなるものですが、スンホの人生の向きを変える人物がジウだったんです」

 俳優チョン・ウソンとスンホはどれくらい似ているのだろうか。チョン・ウソンは少し考え込んで、「努力してみようという姿勢は似ているかも」と語った。「誰でも、生きているとスレてしまうものですよね。そのとき、そのままでいるか、それでも世間擦れを落とそうと努力するのかしないのかが、その人を変えるのでしょう。僕は、それでも垢すりタオルとせっけんを持って挑もうとする側に近いように思います」

 同作はいささか無骨で、直接的な作風だ。「弁護士も人間だ」「あなたは良い人ですか?」といったせりふが出てくると、身の置き場に困る。やぼったい新派のように見えるかもしれない。とても善良な映画にしたい、という強迫観念に苛まれたのではないだろうか。チョン・ウソンは「映画の中の質問を見てほしい」と語った。「質問を思い出すだけでも、私たちの一日が変わるかもしれません。それで十分」

ホーム TOP