ソウル市内の新村駅近くの路地にある中国料理店「忠和飯店」には晩秋から春にかけて、特別なメニューが一つ追加される。チャジャン麺(韓国式ジャージャー麺)に世界3大珍味の一つ、トリュフをのせた「特選トリュフチャジャン」だ。チャジャン麺がテーブルに運ばれると、従業員がチャジャン麺の上に黒トリュフを厚さ0.5ミリに削ったものをのせてくれる。1皿2万ウォン(約2000円)にもならない割に、かなり多くの量だ。高級レストランでこれくらいの量がパスタの上にのっていたら、3-5万ウォン(約3000-5000円)はするはずだ。麺とたれを混ぜるとき、トリュフのいい香りがする。豚肉を長時間煮てつくった濃厚なたれの中にトリュフの食感が感じられる。この店を訪れる客の90%が20-30代だ。大学院生チェ・ユンヒョンさん(27)は「高級なトリュフをたっぷりのせてくれるので、(ありふれた)チャジャン麺なのにごちそうを食べているような気分」と語った。

 20-30代の間で最近、平凡なメニューに高級な食材を使った「小確幸(小さいけれど確かな幸せの意)美食」が人気となっている。誰もが食べ慣れているメニューだが、高価で珍しい食材を組み合わせることで、特別なメニューに生まれ変わっているというわけだ。

 ソウル市内の江南駅の裏路地にある豚肉専門店「熟達豚」では、ヒマラヤ産のピンクソルトを使って味付けしている。肉を焼く前、客の目の前で、手のひらの半分ほどの大きさをした薄ピンク色の岩塩を専用の器具を使って削り、肉に振りかける。焼き上がった後、もう一度この塩で味を調える。サラリーマンのキム・へウォンさん(30)は「1万ウォン(約1000円)台の豚肉に高級な塩をその場で振りかけてくれるので、サムギョプサル(豚バラ肉の焼き肉)が特別なものに感じられる」と語った。ヒマラヤ産の塩は、ヒマラヤ山脈(パキスタン)で採取された、加工前の塩の塊だ。海水塩に比べ塩分濃度が低く、カルシウムやマグネシウムの含有量が多い。そのため300グラムでおよそ7万ウォン(約7000円)と高価だ。ソウル市内の弘益大学エリアにあるとんかつ専門店「KAWAKATSU」や新沙洞の「チョンドン」では、とんかつソースとともにヒマラヤ産の塩を提供している。デザート専門店では、チョコレートやマカロンの上にヒマラヤ産の塩を1粒のせたメニューが人気だ。

 韓国産に比べ価格が2倍ほどで、「金塊バター」と呼ばれるフランス産のゴメバターを使っているベーカリーも人気を集めている。京畿道安養市のベーカリー「go le pain」は、オープンの2時間前から客が列をなす。中でもゴメバターを厚さ1センチにカットしてパンの間にはさんだゴメバターパンが最も有名だ。マカロン専門店でも、競うように「ゴメバターでクリームをつくっている」と宣伝している。

 高級砂糖の人気も高い。フランスの「CANASUC」は欧州の王室や高級ホテル、三つ星レストランなどで主に使われている砂糖ブランド。モーリシャスで栽培されているサトウキビからつくられている。250グラムで2万2000ウォン(約2200円)で、1キロ当たりおよそ1300ウォン(約130円)の一般的な白砂糖の60倍を超える。最近、ソウル市内のCOEXで開催されたソウルカフェショーに並んだ商品のほとんどが売り切れとなった。CANASUC側は「かわいらしいデザイン、刺激的ではない甘みが、紅茶やコーヒーを楽しむ顧客に人気」とコメントしている。

 専門家たちはこうしたメニューの人気を「小確幸」の延長と分析している。フードコラムニストのイ・ヘリムさんは「衣食住のうち最も安く手軽に満足させられるのが『食』だ。小さな消費でも満足度が非常に高いことから、こうした現象が生じているのではないか」と語った。

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