映画
ダンスだけじゃない! 演技でも認められたD.O.
めったに感情を爆発させることはない。俳優ト・ギョンス(25)は、なかなか揺れることのない波のようだ。これまで8本の映画と5本のドラマに出演したが、ト・ギョンスが大泣きする場面はほとんど見たことがない。人気アイドルグループEXOのメンバー、D.O.としてデビューしたときから、ト・ギョンスは「寡黙なアイドル」として有名だった。そんなわけで、ファンが付けてくれたニックネームも「アルモギョン」。分かりそうで分からないト・ギョンス、という意味の韓国語を略した表現だ。それだけに、この寡黙な俳優は、自分が静から動へと移り行く瞬間を機敏に拡張させる術を心得ている。ドラマ『100日の朗君様』(tvN)でト・ギョンスがかすかに笑うと、視聴者はロマンスを予感した。2018年12月19日から公開された映画『スイングキッズ』では、主人公ロ・ギスが足をしきりに動かす瞬間、まさにハイライトだということを観客は直感した。ト・ギョンスという俳優が、細かな動きでもクライマックスを作り出したからこそ可能だった。
ト・ギョンスが出演した『スイングキッズ』は12月27日、公開からわずか9日で観客動員数が100万人を超えた。競合作品に比べると少数のスクリーンで出発し、『バンブルビー』などハリウッドの大作映画の攻勢が強いにもかかわらず、口コミに後押しされている。『スイングキッズ』のカン・ヒョンチョル監督は「ト・ギョンスは期待以上に多くのことをやってのけた」と語った。
■寡黙で重々しいクライマックス
観客1400万人を動員した映画『神と共に-罪と罰』でト・ギョンスが演じた役は、軍隊にうまく適応できない、いわゆる「関心士兵」のウォン一等兵。せりふは多くないものの、このウォン一等兵がストーリーの山場を担当。ウォン一等兵が誤射した1発で映画が急展開するからだ。2016年の映画『あの日、兄貴が灯した光』も同様だ。同作の主人公は、チョ・ジョンソク演じるコ・ドゥシク。チョ・ジョンソクが華麗なアドリブと体を張ったギャグで観衆を揺さぶる間、ト・ギョンスは傍らで黙々と話を聞く弟コ・ドゥヨンを演じた。浮かれているというよりも、どっしりと相手役を受け入れる俳優。ト・ギョンスは意外にも、そんな重みのある演技で作品を引っ張ってきた。それゆえに、この落ち着いた俳優が次第に感情を高ぶらせていくときの効果は一段と大きい。『あの日、兄貴が灯した光』でコ・ドゥヨンが柔道の試合中に「兄貴!」と叫びながら号泣するシーンがそう。『スイングキッズ』でロ・ギスが「タップダンスっていうのは、本当に人間を狂わせるものだ」と言いながら足を動かすシーンもそうだ。「僕はそんな風にしたくない。このままでいたい」。『100日の朗君様』でも、主人公ウォンドゥクのこの告白は実にぶっきらぼうだったが、その無心なせりふのトーンに、女性視聴者はハートを刺激された。
■弾力ある「ゴムひも」のように
「お前、実は見えてるんじゃ?」。これは、『あの日、兄貴が灯した光』でト・ギョンス演じる視覚障害者のコ・ドゥヨンが兄コ・ドゥシクに柔道の技をかけて倒したとき、ドゥシクが叫ぶせりふだ。表情には含みがあるが、動作が大きく柔軟なのもト・ギョンスの特徴。ダンスで鍛えたアイドルだからこそ可能な領域だ。ト・ギョンスが「アイドルでも演技がうまい」ではなく「アイドル出身だから演技がうまい」と言われる理由もここにある。『スイングキッズ』でト・ギョンスは、楽しい時には動作を大きく、悔しい時は動作を素早くして、自分の激しい感情を涙や笑いではなくダンスで表現した。ドラマ『大丈夫、愛だ』(SBS)では、ルー・ゲーリック病(筋萎縮性側索硬化症、ALS)で体がこわばっていく場面を繊細に表現した。最近のインタビューで、ト・ギョンスは「慣れ親しんだ感情は慣れ親しんだ動きで、なじみのない感情はなじみのない動きで描こうと思った」と語った。自然であるとはどういうことか、既に悟った人間の言葉だ。