人気男性アイドルグループ「SHINee(シャイニー)」のメンバー、ジョンヒョンさん(27)=本名:キム・ジョンヒョン、写真=は2005年に大手芸能事務所SMエンターテインメントの練習生になった。16歳の時だった。高校のバンド部のベーシストだったジョンヒョンさんは、青少年歌謡祭に出場して芸能事務所の目に留まり、3年間の練習生生活をした後、2008年にデビューした。しかし、ジョンヒョンさんは18日、自ら命を絶った。その遺書には「僕は内側から壊れてしまった」「ぶつかって、知られて、つらかったんだ。なぜそれを選んだのか」と書かれていた。このため、韓国特有の「詰め込み式」「枠にはめ込む」アイドル養成システムに問題があると指摘の声が上がっている。

■アイドルの現実

 ある大手芸能事務所で練習生をしていたAさん(24)は「アイドル歌手や練習生は『窓格子のない牢屋』で暮らしているのと同じだ」と言った。Aさんが教えてくれた練習生のタイムテーブルには、午前6時から翌日午前1時までスケジュールがぎっしり詰まっていた。午前6時に宿泊施設で起床し、8時から9時30分まで振り付けの練習をする。午前10時から2時間は演技のレッスンを受ける。午後はボーカルレッスン、個人の振り付け練習、語学教育などが続く。「一日20時間の目まぐるしい練習」は数年間続いた。Aさんは2年前に練習生をやめたが、「ジョンヒョンさんもこういう生活を3年間してデビューしたと聞いている。韓国ではほとんどの芸能事務所が同じようなスケジュールを練習生に課している」と言った。

 アイドル練習生は芸能事務所が用意した「行動規範」も守らなければならない。「フェイスブックなどソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)全面禁止」「恋愛禁止」などだ。これに違反すると減点され、それが累積すると強制的に事務所をやめさせられる。ある芸能事務所の関係者は「韓国の芸能事務所はすべて『アイドル』という商品に投資する会社だ。アイドルが問題を起こせば広告契約が解除され、違約金を会社が抱え込まなければならないので、私生活の管理は必須だ」と話す。

 アイドル歌手は成功できるかどうかに対する強迫観念、私生活流出の恐れ、悪意のある書き込みなどつらく激しいプレッシャーを感じることが多い。10代のころから芸能事務所に監視・規制され、普通の学校生活ができず、社会化の過程を経ていないケースが多いからだとの指摘もある。ストレス過多の状況になれば、1人では乗り越えられないこともあるだろう。

 アイドル歌手が多数在籍しているソウル市内の高校の教頭は「芸能事務所側から公式文書を送ってきたら、練習生が授業に来ていなくても公欠あるいは校外学習をしたものとして処理する」と言った。ジョンヒョンさんも練習生だった時に高校を自主退学して高卒認定試験を受けた。

■懸念の声

 外国にも芸能事務所があり、アイドルがいる。しかし、米国の芸能事務所は「仲介役」をするだけで、アイドルの活動や私生活には関与しない。こうした芸能事務所は才能のある「原石」を発掘してデビューさせるケースが多い。韓国の芸能事務所がオーディションで選んだ練習生に数年間、歌とダンスを教えて音楽市場に送り出すのとは違う。

 米国のジャーナリスト、ユニ・ホン氏は2014年の著書『コリアン・クールの誕生』で、「韓国の芸能事務所は『スターを作る機械』だ」「K-POPは芸能事務所が飲酒運転・ドラッグ・スキャンダルからスターを守らなければ存続できない構造」と書いた。日本でアイドル歌手を目指していたが、韓国に来て練習生になった日本人Bさん(25)は「日本でも小学生の時からレッスンを受けるが、学校を優先すべきだと考えられているので、授業が終わってから、残った時間でレッスンを受けることになる」と語った。

 うつの症状に苦しむ韓国人歌手が逸脱行為をしたり、自ら命を絶ったりしたことは過去にもあった。大麻を使用した男性アイドルグループ「BIGBANG(ビッグバン)」のメンバー、T.O.Pの弁護人は裁判で「T.O.Pさんは日ごろからパニック障害とうつ病の治療を受けていた」と述べた。2011年にボーカルグループ「sg WANNABE+」の初代リーダーだった歌手チェ・ドンハさんが自殺した時、所属事務所は「グループ脱退後のソロ活動の負担や、成功できるかどうかというプレッシャーでうつ病になったものと推定される」と説明した。

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