「同年代の友人たち、私はこうして賞をもらいました。皆さんも一生懸命やって、それぞれの場所で賞を手にしてほしいです」

 こう語った女優の年齢は75歳。この歳で「韓国最高の女優」に公認された日のことだった。11月25日、ソウル市内にある慶煕大学「平和の殿堂」で開かれた第38回青龍映画賞授賞式。この日最も輝いたのは『アイ・キャン・スピーク』(キム・ヒョンソク監督)で主演女優賞を取った女優ナ・ムニだった。受賞コメントに、客席からは大きな拍手が起こった。「応援してくださった客席の皆さん、本当に感謝しています。96歳になる母、そして母が信じている神様に感謝し、ナ・ムニの仏様にも感謝いたします」。短いコメントだけでも客席を自由に操る、キャリア57年の貫禄が感じられた。

 ナ・ムニは今年、「韓国映画評論家協会賞」と「ザ・ソウル・アワーズ」でも主演女優賞を手にした。70代にもかかわらず主演を務める現役女優、しかも最高の演技賞をさらっていく女優というのは世界的にも稀だ。米国のアカデミー賞を見ても、1989年に『ドライビング Miss デイジー』で、当時80歳だったジェシカ・タンディが主演女優賞を獲得したのが最高記録だ。次いで81年、74歳のときに『黄昏』で主演女優賞に輝いたキャサリン・ヘプバーンが挙げられる。

 ナ・ムニは映画『アイ・キャン・スピーク』で、他人のことに口出ししてばかりいる出しゃばりのおばあさん、ナ・オクプン役を演じた。みんなが嫌うこのおばあさんが、区庁職員(イ・ジェフン)に英語を習おうとすがりついた。物語のモチーフになっているのは、2007年に米国連邦議会下院で慰安婦決議案の票決に先立ち、公聴会に出席して証言した元慰安婦・李容洙(イ・ヨンス)さん。映画でオクプンが母親の墓の前で泣くとき、米国議会の証言台ではっきりと自分が経験してきたことを証言するとき、大勢の観客が共に涙を流した。暗い歴史の傷を重々しくない形で描くこともできる、という点でナ・ムニは特別だ。この日、監督賞を受賞したキム・ヒョンソク監督もまた、インタビューで「シナリオを見た瞬間、女優ナ・ムニのことが頭に浮かんだ」と語った。

 ナ・ムニとテレビの縁は61年、文化放送の公募第一期声優としてデビューしてからのこと。がめつい母親、気難しいおばあちゃん、喫茶店のマダムなど、美しい女優が避ける役を嫌がらずにこなした。95年のドラマ『風は吹いても』(KBS)は、ナ・ムニにとって女優人生の転機になった。こてこての北朝鮮方言を使うがめついおばあちゃん役で出演したナ・ムニは、同作で女優人生初のトロフィーとなる「KBS演技大賞」を受賞。映画『大誘拐 クォン・スンブン女史拉致事件』では主演作が初の作品賞に輝き、2014年の『怪しい彼女』では観客865万人を動員し、ヒットを飛ばす力も立証した。また06年、ドラマ『噂のチル姫』に出演した際には、くるくる回りながら歌う「回って、回って~」というせりふが流行語になり、シチュエーションコメディー『思いっきりハイキック!』では世代を越えて愛された。最高の場に立つまで長年準備を重ね、地道に歩んできたわけだ。

 女優の存在感が極めて希薄になった近ごろの韓国映画界の状況を考えると、ナ・ムニの活躍が持つ意味は一際大きい。ハリウッドには『あなたを抱きしめる日まで』(2013)で主演女優賞にノミネートされた当時79歳のジュディ・デンチや、ヘレン・ミレン(72)、メリル・ストリープ(68)のように、70代前後でも現役の女優が多い。ところが最近の韓国映画界は、女優単独主演の映画はもちろん、男女の俳優の機械的なバランスを保つことすら稀になっている。観客動員力の面で弱いと考える制作側がおじけづいてあきらめるケースが多いからだ。映画評論家のカン・ユジョン氏は「洗練されたシナリオに、危険を甘受する監督と制作者の努力が加わった結果。女優当人にとっての慶事というだけでなく、韓国映画そのものにも示唆するところが大きい」と語った。

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