「手遅れになる前に、どうしても夢を実現させたかった」

 遅咲きの新人歌手ユン・ソジョンはそう言って、照れくさそうに笑った。10月11日にデビューアルバム「私の物語」を発売したユン・ソジョンは、JYJジュンスの母親だ。1小節ほど聞いただけで、息子の優れた歌唱力は母親のおかげだと分かる。「スタートさせれば、事は半分成ったようなもの」と語るユンさんは「昨年心を決めて準備し、こうしてアルバムが出た。これまで生きてきた中で初めて、『やりたい』という強い意志を見せた」と語った。

 身長170センチ以上のユンさんは幼いころ、バレーボール韓国代表入りを夢見た。健康上の問題で挫折したが、未練はなかった。だが歌は違っていた。姉に連れていかれた歌謡大会で大賞を取ったユンさん。生真面目な両親の反対で、歌は趣味にとどめざるを得なかった。そうして結婚し、双子の息子の母になった。才能をそのまま受け継いだ息子の手を取って歌謡大会に出掛けた。ユンさんは「子育てと生活に忙しく、夢があったということすら忘れて生きていた」と語った。

 3年前の「事件」がユンさんの心を変えた。健康面で黄信号がともったのだ。肝硬変により体重はみるみる減っていった。歌を歌う力すら残っていなかった。「人生はこうして暮れていく」という暗い思いを、ふと抱いた。その日、ユンさんは「バケツリスト(死ぬまでにやっておきたいことのリスト)」を作った。その一つがアルバムの発売だった。ユンさんは「いつか世を去るとき『これは本当によくやった』と思えることが一つくらいあったらいいなと思った」と語った。

 容易な決断ではなかった。韓流スターの息子の後光を利用している、という否定的な視線もあった。ジュンスがデビューした直後、ユンさんもCMモデルとしてデビューするチャンスがあった。ユンさんは「当時、デビューして間もない息子のことを考えて、(CMデビューは)しなかった」と振り返った。今回はジュンスを含め、家族の強い支持があった。ユンさんは「最近、生きているという喜びを感じる」と言ってほほ笑みを浮かべた。今後のアルバム制作や自叙伝の執筆など、ユンさんのバケツリストは進行形だった。

 デビューアルバムの収録曲「カクテル愛」は、息子ジュンスとのデュエットソングだ。当初、ジュンスはユンさんに自作曲をプレゼントする計画だった。ある日、たまたまこの歌を聞いたジュンスは、ユンさんに「よく似合う曲」だとしてリメークを提案、デュエットが実現した。その後も二人の息子の応援は続いた。ユンさんは、二人の息子が送った愛情たっぷりのメールを自慢した。ユンさんは「アルバムが出た日、両手を合わせて泣きながら聞いた。それほど強い感動だった。家族に感謝している」と語った。当時を振り返るユンさんの目元はうるんでいた。

 収益金は全額寄付する計画だ。ユンさんは「誰かが夢をかなえる土台を築く上で、役に立てばと思う」と語った。

 「以前は『私の人生なんて重要じゃない』と思っていた。育児が一番重要だった。きちんと育ってくれた二人の息子に感謝している。死が近いと感じて、ちょっと変わった気がする。将来への不安から、きょうすぐやりたいことをあきらめたくなかった。私の歌をきっかけに、私のように夢をあきらめて生きてきた人が何かに挑戦できればうれしい」

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