「努力の跡が見えないケースはある。けれど、だからといって努力しなかったら、それは100%ばれる」

 俳優ソル・ギョング(49)は、映画『殺人者の記憶法』(ウォン・シンヨン監督)の準備をするに当たり、体重を10キロ減らした。かなり大変なはずだが、実は体重を増やしたり減らしたりするのはソル・ギョングにとって大したことではない。『オアシス』(2002)では減量し、『力道山』(2004)に出演したときは一番太った。どんな作品をやっても、ソル・ギョングはそうだった。ソル・ギョングの表現を借りるなら「太らないといけないようなら太り、やせないといけないときはやせた。それはあまり難しくないこと」だ。そういうわけで体重管理は、ソル・ギョングが何か役を務めるとなったらスタートする、最も基本的な演技行為と言える。今回の作品で減量したのも同じ流れだ。

 ただし『殺人者の記憶法』に関しては、ほかにも理由があった。この作品でソル・ギョングが体重を減らしていったのは、ソル・ギョングが演じるキム・ビョンスというキャラクターが「そうらしいので」「そうすべきだったから」という単純な理由もあったが、キム・ビョンスの顔がどういうものか気になったからという理由の方が大きかった。

 「以前は、相対的に単純に考えて体重を増やしたり減らしたりした。けれど今回は少し違った。キム・ビョンスの顔が気になってね。この人は一体どんな人なのか、その人物の顔が気になるというのが大きな理由だった。僕が見たかったこの人物の顔を想像しながら体重を減らした」

 金英夏(キム・ヨンハ)の同名小説を映画化した『殺人者の記憶法』は、連続殺人犯が主人公だ。この人物がほかの作品で描かれる殺人犯と違うのは、既に17年前に連続殺人をやめた「元」犯罪者だというところ。しかもこの人物はアルツハイマーを患い、徐々に記憶を失っていく。それがまさにソル・ギョング演じるキム・ビョンスだ。

 ソル・ギョングは「よく分からないが、脂っ気がすっと抜けた顔が思い浮かんだ」と語った。「食事を減らし、運動をした。でも筋肉を付けるような運動はしなかった。減量は何度もやったが、これまでやってきたのとは違う顔を見せたかった。とても乾いて見える、そんな顔だった」

 ソル・ギョングは「まだ映画を一度しか見ておらず、映画の中で見せている顔について、きちんと判断できていない」と語った。映画は、始まるなりソル・ギョングの顔をとらえる。明らかに強烈だ。ソル・ギョングの顔が、これまで見たことのないものだということは間違いない。特に、前作『不汗党:悪いやつらの世界(The Merciless)』を思い浮かべてしまうと、ギャップはいっそう大きくなる。

 「ものすごくありふれた言葉だが、近ごろ、この言葉をまた思い出す。俳優が悩み苦しんでこそ、観客がたっぷり、豊かに、楽しく面白く感じるという言葉だ。全く悩んでいない顔を観客に見せることはできないではないか」

 今回の作品におけるソル・ギョングのもう一つの悩みは、アルツハイマーに関する表現だった。病気の特性上、実際に経験することが不可能なのはもちろん、経験談を聞くこともできない。さらに、原作が描写しているキム・ビョンスと映画の中のキム・ビョンスは、記憶を失っていく元連続殺人犯という設定は同じだが、性格が違う。小説を参考にして演じることはできなかった。ソル・ギョングは、アルツハイマーの演技について「いささか暗澹とした気分も抱いた」と語った。

 結局、ソル・ギョングにできることは想像しかなかった。「ウォン・シンヨン監督とたびたび話し合って、キャラクターを作っていった。対話し、相談しながらキム・ビョンスを作っていった。なので、衣装一つ、ヘアスタイル一つにも非常に気を遣った。僕はもともと、あまりそうはしないのだけど。たぶん、僕と前に仕事をしたことのあるスタッフは『あの人がなぜあんなに』と思っただろう」

 ソル・ギョングは前作『不汗党』と今回の『殺人者の記憶法』を、演技についてあらためて考えるようになった作品に挙げた。封切りは『不汗党』(5月17日)の方が早いが、先にクランクアップしたのは『殺人者の記憶法』だったので、新たな演技の悩みはこちらから始まったといえる。

 「ターニングポイントだと大仰に言いはしない。その単語は、後日のためにとっておきたい。ただ、今回の作品が僕を緊張させたというのはある。僕をいっそう激しくさせた」

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