「Jeong Kwanという僧侶を知っているか。寺刹料理(精進料理に相当)マスターとのことだが。どうしても会ってみたい」

 数年前から親交のあるオーストリアの日刊紙のグルメ担当記者から今年3月、このようなメッセージを受け取った。Jeong Kwan? 調べてみたら、全羅南道長城郡にある白羊寺・天真庵の正寬住職のことだった。料理をする人たちの間では大家として認められてきたが、一般的にはあまり知られていなかった。ほとんどテレビに出てこない上、料理本を出版したこともなく、寺刹料理店を出したこともない。韓国国内でもあまり知られていない僧侶を、はるか遠く欧州の記者が知っているというのが不思議だった。

 「少し前、動画配信サービス大手のNetflix(ネットフリックス)が制作した料理関連のドキュメンタリー『Chef’s Table』シーズン3にこの僧侶が出演した。料理はもちろんだが、料理に対する哲学が、これまで同番組に出演したシェフたちとは次元が違っていた」

 『Chef’s Table』は、料理に関するドキュメンタリーを手掛けるデヴィッド・ゲルブ監督が総括制作・演出した。正寬住職をはじめ、世界の有名シェフ6人がそれぞれのエピソードに出演し、自分の料理や料理哲学を披露するこのドキュメンタリーは、今年のエミー賞候補に挙がり、ベルリン国際映画祭にも招待された。正寬住職も同映画祭に招待され、今年2月にドイツ・ベルリンを訪れた。

 正寬住職が『Chef’s Table』に出演することになったきっかけは、2014年にさかのぼる。米国の有名シェフ、エリック・リパート氏が世界の料理を紹介するテレビ番組の撮影のため韓国を訪れた。もともと仏教徒で寺刹料理に関心があったリパート氏が天真庵を訪れ、たいそう感動し、正寬住職を米国ニューヨークに招待した。ちょうどリパート氏が設けた食事会に招待された米紙ニューヨーク・タイムズのグルメ担当記者ジェフ・コーディナー氏は、正寬住職の料理を口にするやいなや「韓国に行かなければ」と決意したという。同記者は2015年、4泊5日間の日程で天真庵に滞在し、帰国後記事を書いた。記事で同記者は「世界で最も珍しい料理を食べたかったら、ニューヨークやデンマークではなく、天真庵に行くべし」とたたえた。この記事を読んだデヴィッド・ゲルブ監督が翌年5月、天真庵でドキュメンタリーを撮影したというわけだ。
 
 その後も米国やフランス、イタリア、スペインなど世界各国の美食家たち、そして料理関連の仕事をしている人たちから「正寬住職を知っているか」という問い合わせが相次いでいる。

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