ドラマ
フュージョン時代劇全盛の韓ドラ、背景に韓国社会の現実
揺れるチマチョゴリにゆったりとした道袍、王が着る鮮やかな赤の竜袍がお茶の間のテレビに映し出される。KBS・MBC・SBSの地上波3局が朝鮮時代を舞台にした「フュージョン時代劇」を競い合うようにして放送しているのだ。歴史的背景にフィクション要素を取り入れたフュージョン時代劇は、『トキメキ成均館スキャンダル』(2010年)、『太陽を抱く月』(12年)、『雲が描いた月明かり』(16年)のようなヒット作を出してきたジャンルだ。しかし、地上波3局が同じ時代を描く作品を同時期に放映するのは異例だ。
火ぶたを切ったのは先月10日からMBCが放送している水木ドラマ『君主-仮面の主人』だ。世子が朝鮮の水を独占した私的組織に対抗して国王になるというストーリー。幼い世子を組織から守るため仮面をかぶせて顔を隠すという独特の設定で水木ドラマ視聴率1位をひた走っている。
追撃に乗り出したKBS第2の水木ドラマ『7日の王妃』は唯一、実在した人物が主人公だ。朝鮮第10代国王・燕山君と腹違いの弟で朝鮮時代第11代国王・中宗、中宗の最初の妃だったが騒動に巻き込まれ、王妃の席に就いてたった7日で退位した端敬王后慎氏が登場する。この史実を元に、燕山君と中宗が端敬王后慎氏めぐる恋敵だったというフィクションを加えた。SBSが先月29日から放送している月火ドラマ『猟奇的な彼女』は、おてんばな姫と清に留学経験のある貴公子とのロマンス。チャ・テヒョン&チョン・ジヒョン出演の同名映画(2001年)を朝鮮時代に置き換えてリメイクしたものだ。「酔って気持ち悪くなったり拳を振るったりする姫の姿に抵抗感がある」という指摘もあるが、十数年前の映画で観客に新鮮な衝撃を与えたシーンをパロディーで再現したものだ。
時代劇は間接広告(PPL)で制作費を補うことが難しいため、制作会社が敬遠しがちなジャンルと言われる。それでもフュージョン時代劇が相次いで放送されている理由には、まず「韓流」が挙げられる。韓国の伝統的な文化は視覚的に一風変わった印象を与え、外国の視聴者の目を引く素材だ。見る時に歴史の知識が必要な正統派時代劇よりも、ラブロマンスのような普遍的ストーリーを描きながら時代背景だけを置き換えているフュージョン時代劇は、こうした素材を活用できるものだ。事前製作された『猟奇的な彼女』は事実、日本・香港・台湾などアジア11カ国・地域に買い付けられ、北米・中南米でもインターネットで放送されている。制作会社レモン・レインのユン・ソヨン・コンテンツ事業チーム長は「東南アジア地域では特に韓国の時代劇に対する人気が高い」と話す。
韓国で現在放送されているフュージョン時代劇が注目した朝鮮時代は史料が豊富だという長所もある。「朝鮮王朝実録」から各種の民間歴史書に至るまで、さまざまな史料をもとにしてストーリーに具体性を取り入れることができる。ドラマ評論家コン・ヒジョン氏は「史料が足りないと想像に頼るしかない。視聴者はこれをただの『作り話』として受け入れてしまい、ストーリーにはまったり感情移入したりするのが難しくなる」と言った。
最近フュージョン時代劇の放送が相次いでいる背景には、前政権の大統領弾劾問題やそれに伴う大統領選挙を経て、政治が「ホット・イシュー」になっている韓国の現実とも関連がある。これらのドラマはストーリーがそれぞれ違っていても、指導者の資質や権力の属性、大衆の参加意識といった政治的なメッセージを含んでいるという共通点がある。『君主-仮面の主人』と『7日の王妃』は国王や世子を主人公にして、理想的な国とリーダーシップを取り上げている。ラブコメディーの『猟奇的な彼女』も朝廷の実力者が姫の生母である中殿を廃位させるシーンで始まり、今後繰り広げられるであろう権力闘争を示唆している。梨花女子大学国文科のキム・ミヒョン教授は「現代劇で描くにはデリケートな要素を、負担が少ない時代劇で描いているのだろう」と語った。