美しく特色のある自然、おいしい食べ物のほか、最近ではカフェツアーでも人気の済州島は、年々観光資源が豊かになっている。ほかに追加するものなどあるのかと思う人もいるだろうが、これからが本当の旅といえる。昔から水がきれいなことで有名な済州島は、伝統的な焼酎「コソリ酒(オメギ酒〈餅粟酒〉を蒸溜したもの)」が原型のまま残っている地域だ。さらに韓国のクラフトビール「Magpie」の醸造所ができたほか、米国発のクラフトビールメーカーであるブルックリン・ブルワリー社まで済州島に醸造所を設立するという計画を発表した。済州島の東西南北に散らばっている醸造所をめぐることで、島内観光ができるほどだ。

 中でも代表的なのが、済州市涯月邑にある済州セム酒。ここは農林畜産食品部(省に相当)が「訪ねる醸造場」に指定したところで、コソリ酒やオメギ酒のほかにも、済州産のミカンを使った「nimome」など済州固有のさまざまな酒を試飲し、購入することができる。済州のホットプレイスに浮上している涯月邑中心部にあり、行きやすいのも魅力だ。
 その反対方向にある城邑民俗村には「済州コソリ酒が熟する家」がある。代々コソリ酒とオメギ酒をつくってきたところで、1995年にキム・ウルジョンさんが無形文化財に指定された。その後、無形文化財伝授助教の嫁と孫がその味を引き継いでいる。

 キム・ヒスク伝授助教のもとを訪ねたのは、まだ済州島で桜祭りが開催される前の3月末だった。涯月邑では桜祭りが開催される直前だったが、海抜500メートル地点にある城邑民俗村内の醸造所は、春まだ遠しという感じだった。酒の味の秘訣を尋ねると「済州島の自然の中で乾燥させた麹にある」とだけ話してくれた。麹を少しだけ使って酒をつくるのが核心だという。「済州島はだいぶ開発されたけれど、民俗村周辺には美しい自然が残っています。標高が高いところなので、明け方には夜露を受け、また昼間には強い日差しを受けながら、いい麹ができるのです。美しい自然が生み出した菌が自然と最高の麹をつくってくれます」

 ここで使われる材料は、麹に使用する小麦からメーンの材料である粟、大麦まで、全て済州島で生産されたものだ。水は言うまでもない。同じ材料を使ったからと言って、同じ味が出せるわけではない。有名店のレシピを知っているからと言って、同じように作れないように、温和なほほ笑みを浮かべながら話すキム・ヒスクさんの言葉は、いっそう好奇心をかき立てる。

 長い間酒づくりをしてきたが、販売はようやくスタートの段階。コソリ酒が人気を集め、訪れる人が増えた上、城邑民俗村に来たついでに酒を買って帰ろうという観光客も多い。しかし、大量生産は難しいという。キム・ヒスクさんは「生産過程で一切機械を使わないため、たくさんの量を生産するのは難しいです。蒸留焼酎であるコソリ酒は、土焼きの蒸留器であるコソリに直接まきの火を当ててつくります」と語った。

 また「ずっと前から酒をつくってきたし、教育に携わってきたので、販売に欲があるわけではありません。私たちの酒が好きでやって来る方たちにお出しできる程度で十分です」と話している。

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