「焼けたフライパンに載せられた魚みたいに、怖くもありますよ」

 5月15日、ソウル・光化門にあるホテルの会見場にて。ポン・ジュノ監督(47)は、新作映画『オクジャ』の公開(韓国では6月29日)に先立ち、およそ300人の取材陣の前でこのように語った。『スノーピアサー』以来およそ4年ぶりにポン監督が演出を手掛けた映画『オクジャ』は、ホン・サンス監督の『その後』と共に、5月17日にフランスで開幕するカンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品された。

 ポン監督は「純真無垢で繊細、デリケートな趣向を持つ世界の映画人がみんな集まり、新作をめぐって夜通し討論を繰り広げるフランスの田舎町がカンヌ。評価に疲れた審査委員に、楽しい2時間を保証するだろうという確信はある」と語った。今年の映画祭には、パク・チャヌク監督(53)が審査委員として参加している。

 ポン監督の『オクジャ』は、米国の動画サービス最大手「NETFLIX」が5000万ドル(現在のレートで約56億円)という破格の予算を投じて作った映画として話題になった。映画『セブン』や『ミッドナイト・イン・パリ』、『愛、アムール』などを撮ったダリウス・コンジが撮影監督を務め、ティルダ・スウィントン、ジェイク・ギレンホールといった有名俳優が出演した。

 15日の会見に一緒に出席したNETFLIXのテッド・サランドス最高コンテンツ責任者(CCO)は「ポン監督は世界の映画界の巨匠(master)で、彼と一緒に仕事をしている間は、本当に夢を見ているようだった」と語った。同作の共同制作者でブラッド・ピットが共同代表を務める「プランB」の映画プロデューサー、ジェレミー・クライナーは「ブラッド・ピットと一緒のポン監督の過去の作品を見て、ストーカーなみのレベルでポン監督を尊敬している」と語った。

 15日の会見では、1分ほどの予告編と編集作業日誌だけが事前公開された。映画の予告編などによると、『オクジャ』とは、ブタとカバを合わせたような巨大な動物の名前だ。江原道の山奥で少女「ミジャ」(アン・ソヒョン)がオクジャを助けて一緒に暮らすが、多国籍大企業のCEO「ルーシー・ミランド」(ティルダ・スウィントン)がオクジャを奪い、ニューヨークに連れていった。同作は、オクジャを取り戻そうとするミジャのニューヨーク冒険物語であると同時に、ヒトと動物の愛を描いたロマンスでもある。ポン監督は「私が初めて作った『ラブストーリー』で、少女と動物の愛の物語」と語った。

 とはいえ、『オクジャ』の公開スタイルをめぐり、韓国やフランスなどでは鋭い論争が起きている。『オクジャ』は6月29日(韓国時間)に、世界190カ国のNETFLIXサービスを通して上映される予定だ。韓国では同日、NETFLIXと映画館で同時公開される計画。英国や米国でも映画館での公開を推進しているが、確定はしていない。

 韓国の観客は映画館とNETFLIXのどちらか、鑑賞方法を選ぶことができるが、世界のほとんどの国では、NETFLIXを通してしか見ることができない。このためフランスの映画業界では「劇場よりオンラインを重視するNETFLIXの事業戦略が、映画市場の秩序を混乱させている」として強く反発した。

 カンヌ映画祭は今年、NETFLIXが制作した映画を2本、コンペティション部門に登場させた。『オクジャ』と、米国映画『ザ・マイヤーウィッツ・ストーリーズ』(The Meyerowitz Stories. ノア・バームバック監督)だ。しかし、来年からはフランスの劇場で上映される映画のみをコンペティション部門に招待するという形で、関連の規定を変更した。『オクジャ』は、カンヌ映画祭の規定すら変えてしまうほどデリケートな争点になっているのだ。

 こうした論争を意識したかのように、韓国の配給会社NEWの金佑沢(キム・ウテク)総括代表は「上映日数に制限をもうけず、映画館を通しても多くの韓国の観客が鑑賞できるようにしたい」と語った。しかし韓国国内のシネコンは、オンラインと劇場で同時公開するという『オクジャ』の手法に困惑の表情を隠せずにいる。ある映画館関係者は「映画館で新作をまず公開した後、DVDやオンライン上映を通して付加市場を拡大するという、現在の映画市場そのものを破壊する結果をもたらしかねない」と語った。

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