済州道と言えば、まず思い浮かぶものの一つがミカン。済州道に住んでいると言うと、よく冗談で「裏庭にミカンの木はあるの?」と聞かれるほどだ。実際に本格的な収穫シーズンになると、あちこちでミカンの木が目につく。

 そんな済州道にある済州セム酒(済州道済州市涯月邑)では、済州産のミカンを使った酒を新発売。商品名は「nimome」。「君の心に」を意味する済州道の方言だ。ただ楽しむために飲む酒ではなく、飲む人の気持ちを考える、そんな酒になればという思いからそう名付けれられたという。

 「nimome」は珍しく済州産米を原料としている。雨や地下水に頼っている済州道では、水が足りず田んぼがほとんどないため、米は貴重だ。それだけに、どうしても米の価格が高くなる。そのため「nimome」には、済州の自然を込めるという哲学が垣間見られる。

 「nimome」は済州産米のほか、済州産ミカンの皮を入れて発酵させて作る。ミカンは醸造場で直接購入し、洗浄や浸漬などの過程を経て、果肉と皮を分離する。こうしてさまざまな過程を経た皮を乾燥させた後、米とともに発酵させる。発酵が終わったら、冷却して10度以下で十日間低温熟成させて完成。

 アルコール度数11%の「nimome」は添加物を一切使用していない。ミカン特有の甘酸っぱい香りが食欲を刺激する。ややオレンジ色をしており、ソーヴィニヨンブラン(白ワイン用ブドウの品種)を思わせる。やや苦みのある後味が、甘みを抑え、すっきりした印象にしてくれる。

 済州産ミカンを使用した酒はこれまでにもあったが、主に果汁を使ったものだった。「nimome」は全く新しい製法で作られており、ミカンの香りや味を余すところなく味わえる商品だ。10度以下に冷やして飲めば、食欲を刺激する食前酒にピッタリ。また、甘い香りと苦みのある後味で、ケーキなどデザートとも相性抜群。

 発売からまだ間もない「nimome」は、店であまり目にすることがない。「訪ねる醸造場」に指定された済州セム酒は、涯月邑を訪れるなら絶対にはずせない観光コースの一つ。醸造場では「nimome」だけでなく、オメギ酒(餅粟酒)やコソリ酒(オメギ酒を蒸溜したもの)など済州道の酒を試飲したり、購入することができる。

 もし済州道でカフェめぐりを計画しているのなら、済州市外都洞の海岸沿いにある「nimome」を要チェック。偶然酒と同じ名前のこのカフェでも、済州セム酒の「nimome」を販売している。個性あふれるヴィンテージ風の小物やインテリアが置かれているこのカフェは、週末になると多くの人でにぎわい、空席を見つけるのが大変だという。風が強くなかったら、テラス席に座るのもいい。遠くに赤い灯台が見える海岸沿いに位置しており、美しい景色を背景に写真を撮るのもオススメ。ただし、店内では酒を飲むことができないので注意しておこう。

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