映画
極悪無道な悪役の演技で魅せる『プリズン』ハン・ソッキュ
「今回の演技の点数をつけるなら、65点」
『根の深い木』の世宗大王や『浪漫ドクター キム・サブ』で俳優ハン・ソッキュ(52)が披露した顔は、実は半分だけだったのかもしれない。テレビの画面から映画のスクリーンにジャンルを移すと、ハン・ソッキュのまた別な一面が見えてくる。『ナンバー・スリー』のつまらない三流やくざから、『殴打誘発者たち』の悪徳交通警察官、『スカーレットレター』で不倫のため破滅していくエリート刑事に至るまで…。ハン・ソッキュが出演した映画は23本あるが、その中で悪役を演じた作品の占める割合は、決して小さくない。
3月23日公開の映画『プリズン』(脚本・監督:ナ・ヒョン)でハン・ソッキュは、出演作の中でも残忍さや破壊力の面では上位にランクインするといえる、悪役演技の真髄を見せてくれる。ハン・ソッキュが演じる「チョン・イクホ」は、表向き真面目な模範囚のようだが、刑務所の中と外を行き来しながらありとあらゆる犯罪に手を染める囚人たちの上に君臨する。3月17日にソウル・三清洞で対面したハン・ソッキュは、映画のシナリオを読んでいて「『動物の王国』のような自然ドキュメンタリーに登場する雄のハイエナを連想した」と語った。「片目をなくし、肌は裂け、びっこを引きながらも、本能一つで生き残る獣のイメージを始終思い浮かべていた」という。
同作は「受刑者が自由に監獄を出入りしながら犯罪に手を染めて回る」という、逆転の発想から生まれた。既に処罰済みということで容疑者リストに載ることはあり得ないという、警察の捜査の盲点を突いているのだ。見方を変えると、医療事故を起こした医師から、ひき逃げの容疑で拘束された刑事、金庫破りに至るまで、あらゆる「専門家集団」で一杯の場所が刑務所だ。未解決事件の捜査のために刑事が犯罪者集団に潜入するという設定は、映画『インファナル・アフェア』シリーズと似ており、素人の主人公が達人の悪党と正面から対決するという作品の構図は、やくざ映画や西部劇も連想させる。実に漫画的な想像力だが、ここに現実的な、いきいきとした躍動感を付与しているのがハン・ソッキュの演技だ。
映画の撮影を前に、ハン・ソッキュはマキャベリの『君主論』を読み直したという。『理想的かつ観念的なかつての統治者像から脱却した同書を通して、暴力的かつ残忍で、民を完全に服属させる君主のイメージを思い浮かべた」という。いわれてみれば、刑務所長をわいろで手なずけ、暴力団員の囚人もカリスマ性で制圧する「チョン・イクホ」は、マキャベリのたとえのように「獅子の力とキツネの策略」を持つ君主にも似ている。
『プリズン』でハン・ソッキュは、トーンを高めることもなく、ゆっくりとした強く響く声で映画の流れを一気に奪っていく。「俺はこの中から世の中を回してるんだ」というようなアドレナリンが噴き出るせりふを、ハン・ソッキュがゆっくりと口にする瞬間、「チョン・イクホ」のワルさは現実感を持つ。ハン・ソッキュは「たわけ者の言葉と思って聞いて欲しいが、『どうすれば演技をしないか』、そればかりを考えていた。難しい修飾語を付けて華麗に作り上げるのではなく、空にして、省いていこうと思った」と語った。
「国民俳優」のような修飾語が付くようになってから、既に久しい。それでもハン・ソッキュは、自分の演技に辛い評価を下す。『プリズン』の演技についての自己採点は65点。「全ての演技者には、自虐的な一面がある」という。自分の出演作の中では『八月のクリスマス』に最高点(80点)を付けた。その瞬間、余命いくばくもない独身青年「ジョンウォン」(ハン・ソッキュ)が、窓の外を通り過ぎる「タリム」(シム・ウナ)の姿を眺めながら、ゆっくりと窓に指を持っていく場面が思い浮かんだ。外国映画の中ではクリント・イーストウッド監督の『ミリオンダラー・ベイビー』、韓国映画の中ではイム・グォンテク監督の1980年の作品『チャッコ』に、それぞれ90点を付けた。ハン・ソッキュは「『チャッコ』は、反共映画のようでいて、韓国現代史が全て描きこまれている傑作。いつか、この映画をリメイクするのが夢」と語った。
インタビューの終わりにハン・ソッキュは、俳優について「他人の人生を、希望や苦痛を通して表現する職業。できるだけ、苦痛よりは希望を通して表現したいと望んでいる」と語った。台本のせりふを覚えているかのように、助詞一つ抜かすことなく、同じ言葉を繰り返し語った。苦痛に満ちた悪役を演じる俳優の言葉としては、実に逆説的だった。