▲ドラマ『師任堂 色の日記』で画家の申師任堂を演じ、絵を描いているイ・ヨンエ。山水画に長けた申師任堂を演じるため、実際に絵を学んだ。/写真提供=SBS

 朝鮮王朝時代の女流画家、申師任堂(1504-51)を主人公にしたドラマを作るというのは、容易ではないチャレンジだ。良妻賢母、かつ書画に長けた芸術家だった師任堂の人生には、ジェットコースターのように劇的な場面が特にあるわけではない。人生そのものが一本のドラマだった李舜臣(イ・スンシン)将軍とは異なり、申師任堂を取り上げたドラマや映画を見出し難い理由がここにある。

 SBSの水木ドラマ『師任堂 色の日記』は、こうした限界の正面突破を試みた。申師任堂も妻・母である前に熱い愛と情熱を抱く女性だった、という観点から出発した。山水画が巧みな画家にして、無能な夫に代わって家計を支えるワーキングママだった-というところに注目した。

 番組で描かれる師任堂は、5万ウォン紙幣に刷られた無表情な肖像画とは異なる。幼いころの師任堂は、画家の安堅(アン・ギョン)が描いた絵を見るため、よその家の塀まで乗り越える。「どうして女は、してはならないことがそんなにも多いというのでしょうか」と尋ねる、大胆な少女だ。

 偉人の人生をフィクションでゆがめているという批判もあるが、乏しい史料だけに基づいて申師任堂の人生を復元することは、どのみち不可能だ。広く知られているイメージも、かなりの部分は朝鮮王朝時代の儒教理念や植民地期の戦時動員体制など、時代の必要に応じて作られたものだ。

 脚本家は、ややもすると堅苦しくなりかねないストーリーに生き生きとした感覚を付与するため、朝鮮王朝時代と21世紀を交差させた。イ・ヨンエが、朝鮮王朝時代の師任堂と、現代の美術史講師ソ・ジユンの二役を演じる。過去と現在が「メビウスの輪」のようにつながる-という脚本家の説明のように、申師任堂とソ・ジユンの人生は、別人のようでありつつも、ある瞬間には重なり合う。一人二役はつらいはずだが、イ・ヨンエの演技はさび付いていなかった。「ソ・ジユンが教授のポストを手に入れようと、指導教授の新居祝いで食事を振る舞い、雑用までこなす場面はリアルだった」(キム・ユンドク記者)、「ソ・ジユンの人生が申師任堂という人物と自然に重なるようにする設定の巧みさが目立った」(チェ・ミンギ記者)という評価がある一方、チェ・スヒョン記者は「現代パートは、非常にトレンディであってこそ興味や共感を引き出せるものだが、朝鮮王朝時代の場面に比べ、現代の場面の方がむしろ古臭く、退屈に感じる」と指摘した。

 天才芸術家だった師任堂のおかげで、番組には一風変わった見せ場も登場した。美人図から観音菩薩図、金剛山図に至るまで、さまざまな絵が画面を彩る。よほどうまく作らなければ今時人目を引きつけ難い戦闘場面とはまた異なる、素晴らしいシーンが展開する。何より、13年ぶりにテレビドラマの世界へ戻ってきたイ・ヨンエの魅力が、視聴者の胸を高鳴らせる。「朝日のごとく透明なようでもある青い韓服(韓国伝統の衣装)を身に着けた姿が圧倒的」(チェ・スヒョン記者)、「おばさんも、ソン・スンホンではなくイ・ヨンエが出ているからこのドラマを見る」(キム・ユンドク記者)、「空白期があっただけに、一層気品を増し、『宮廷女官チャングムの誓い』のころよりも魅力的」(チェ・ミンギ記者)。

 イ・ヨンエ演じる朝鮮王朝時代の申師任堂はまだ本格登場していない段階で、視聴率は第2話が16.3%を記録。しかし第4話では12.3%まで下がった(ニールセン・コリア調べ)。全30話のドラマにとっては、良くない兆候だ。この意味ある実験が傑作として残るためには、主体的な女性像にせよ、切ない愛の物語にせよ、「イ・ヨンエが素敵」という感想を超える緻密なストーリーラインと重みある感動が必要だ。「宮廷内での女性の暗闘、ゆがんだ権力欲で塗り固められた『張禧嬪』『張緑水』的な歴史ドラマはもう見たくない」(キム・ユンドク記者)という期待が示すように、視聴者の欲求はますます面倒になっているからだ。

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