江原道江陵注文津の防砂堤が最近にぎわっている。週末ごとに観光客が何千人も集まるのだ。視聴率15%を突破したtvN金土ドラマ『寂しくて光り輝く神-鬼』(キム・ウンスク脚本、イ・ウンボク演出、以下『鬼』)で男女主人公を演じるコン・ユ(37)とキム・ゴウン(25)が初めて出会った場所だ。ドラマのシーンとまったく同じ写真を撮ろうとする若者たちが長い列を作り、花束やマフラーなどの小道具をレンタルする商売人まで現れた。放送中にもかかわらず、江原道や仁川市などにはロケ地を巡る「『鬼』ツアー」も登場した。

 ドラマの人気をけん引しているのはやはり男性主人公の鬼を演じるコン・ユだ。長身に長い手足、「太平洋」と呼ばれる広い肩幅を持つ彼は、グラビアやCMを見ているかのような錯覚に陥るほど、画面を圧倒する。コン・ユが昨年出演した映画3作品で2000万人近い観客を集め、ドラマも高視聴率をマークしており、『コーヒープリンス1号店』(2007年)以来、約10年ぶりとなる第2の全盛期を迎えている。映画界・ドラマ界の期待作やCM出演オファーが殺到しているのを見ると、まさに「コン・ユの時代」の到来だ。

 コン・ユ以外の人物が演じる「鬼」を想像するのは難しい。神でも人間でもない存在、強くてしなやか、不思議で美しい役をコン・ユならではのゆったりとした息づかいで演じている。立派な体格と洗練されたファッション・センスのおかげで「コン・ユ・コート」「コン・ユ・ダウンジャケット」「コン・ユ・ニット」など、彼が着た衣装はたちまち完売だ。

 昨年公開された映画『新感線 ファイナル・エクスプレス』(原題:『釜山行き』、通算観客動員数1156万5479人)、『密偵』(同750万420人)、『男と女』(同20万3729人)でのコン・ユは、俳優としてワンランク・アップすることに成功した。その一方で、今ひとつという点もあった。チョン・ドヨンと正統派のラブストーリーに挑戦した『男と女』は興行的には失敗し、『新感線 ファイナル・エクスプレス』と『密偵』ではマ・ドンソクとソン・ガンホの方が強いインパクトを残した。だが、今回の『鬼』はその「今ひとつ」の部分を存分に解消していると言えるだろう。

 「君と一緒にいた時間はすべてまぶしいくらいだった。天気が良くても悪くても、どんな天気でも、どの日も全部良かった」。脚本家キム・ウン独特のセリフはこそばゆくなるほどロマンチックだが、コン・ユは気品を保ちながらさらりと言ってしまう。「鬼」、「あの世の使者」、そして「三神ハルメ」が登場するこの荒唐無稽(むけい)なファンタジーに、コン・ユの気品ある演技がリアリティーを与えているのだ。

 コン・ユは何となくCM監督を夢見て大学の演劇映画学科に入学、小遣い稼ぎのつもりでケーブルテレビ局のビデオジョッキー(VJ)をしていた2001年、偶然俳優の世界に足を踏み入れた。主に問題児や財閥グループ3世など軽く甘いイメージの役が多かった。しかし、彼は自分自身を「きまじめで面白くなくて非主流派の感性を持つ人間」と説明する。20代後半のころは俳優をやめようかと悩んでいたそうだ。そのころ、ドラマ『コーヒープリンス1号店』で男装のヒロインを愛する役を演じてブレークしたが、すぐ入隊した。「人間コン・ジチョル(本名)に戻ることができる癒やしの時間を過ごした」と話す。

 除隊後、コン・ユは「これからは自分の意志に基づいて行動したい。本当の悩みを明かしたい」と言った。それ以来、コン・ユは自分の限界を少しずつ壊していく挑戦を積み重ねた。映画『あなたの初恋探します』ではきまじめで鈍感な男を演じた。聴覚障害者に対する虐待という実話を映画化した『トガニ 幼き瞳の告発』は、コン・ユが自ら所属事務所に映画化を提案して大ヒットした作品だ。アクション映画『サスペクト 哀しき容疑者』では極限のトレーニングとダイエットで鍛えた筋肉がコンピューターグラフィックス(CG)ではないかと誤解された。

 俳優業も17年目に入ったコン・ユの出演作品リストはまだふぞろいだ。コン・ユは「私が語る人物たちの共通点は、生活に疲れていること」と説明する。『密偵』のキム・ジウン監督はコン・ユについて「一瞬の心の動きを表現する繊細な目の演技がすごい。哀れさも感じさせながら、壮絶さや悲壮さを表現するのに最もふさわしい俳優だ」と評した。

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