これまでキム・ウビンの出演作で最も興行成績が良かったのは青春映画の『二十歳』、観客動員数は304万4134人だった。モデル出身で満27歳のこの俳優、人気なみに演技も侮りがたい。うまく雰囲気に乗った作品は観客1000万人まで手が届く年末の映画館街で21日に封切りされた期待作『マスター』(チョ・ウィソク監督)のキム・ウビンは語る。「悪人は結局罰を受けるということ、私たちでもできるということ、そんな希望がこの映画にはありますね。日常に疲れ、困難の中にある方が、少しでも笑って力を取り戻せたらいいと思います」。

 キム・ウビンが演じた天才ハッカー「パク・チャングン」は、複雑なキャラクターだ。カリスマ性にかけては誰にもひけをとらないイ・ビョンホン(詐欺師『チン会長』)とカン・ドンウォン(エリート刑事キム・ジェミョン)の間で、はらはらするような綱渡りをする役。ソウルとフィリピンを行き来しながら2人は心身を激しくぶつけるが、結末のカギを握るのはキム・ウビンだ。スクリーン上でも、2人の先輩俳優に全く押されていない。

 16日にインタビューしたキム・ウビンに「相手の俳優が非常に強力なので負担ではなかったか」と尋ねると、彼は「そんな計算をしていたら、出演できなかっただろう」と笑った。「僕が間で流れを逃したら、映画そのものが揺らぐという負担はありましたね。けれど撮影現場の先輩方はみんな『シナリオの中のキャラ』だったんです。少し気が楽になりました」。キム・ウビンは「目と耳を開いて先輩の演技に合わせよう、一つ一つのシーンにうまくまぎれ込もう」と考えた。「ビョンホン先輩が酒の席で、こう言いました。『俳優は、目立とうとした瞬間、自分の意図とは関係なく、おかしな方向に跳ねていく』と。その言葉を信じて、本当に力を全部抜いて『パク・チャングン』になろうとだけ考えました」。

 中学1年のころから両親に応援され、モデルをしてきた。二十歳になって成人し、「自分の力で独立したい」とプロのモデルの世界に身を投じたが、そこは甘くなかった。ほかの多くの無名モデルと同じく薄給で暮らし、アルバイトで生計を立てた。事務所の社長が夜逃げして給料を踏み倒されたこともあった。「チムジルバン(韓国式サウナ)で寝て、朝になったら手帳をめくって、昼ご飯をおごってくれる人を探しました。仕事をしたければ連絡が取れるようにしていなければなりませんが、料金が払えなくて携帯電話を止められたことも…」。

 そんな彼にとって、オファーが降り注ぐ今の状況は夢のようだ。しかし、演技歴6年で出演映画はたった4本。キム・ウビンは「『水が流れて来るときにオールを漕げ』と考えていたら、ずっと多くの作品に出ていただろう」と語った。「先輩方が『人気なんてものは、泡のように一瞬でぱっと消える』とよく仰います。お金を稼ごうとあちこち駆けずり回ったり焦ったりしたら、困ったことになるようです。一つずつゆっくりとお見せしたいですね」。

 このごろ、劇場には夢も希望もない映画が多い。しかし『マスター』は、世の中はだんだんましになる、という希望を語る。俳優キム・ウビンの希望、目指したい目標は何か。「人々が『次はどんな演技をするのか』といつも気になる俳優になりたいですね。簡単なことではないでしょうが、月日が経った後『いい俳優』として記憶されたいです」。

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