▲豪快に笑うキム・ウンスだが、カメラの前に立つと静かになった。彼は朝鮮王朝の記録「宣祖実録」まで読んで豊臣秀吉を演じたという。

 先月23日に全5話が終了したKBS第1の大河ドラマ『壬辰倭乱1592』は、豊臣秀吉役を演じた演技派俳優キム・ウンス(55)の新たな発見の機会だった。豊臣秀吉が権力を握る過程を描くのに1話分をまるまる割いたが、キム・ウンスは見事に日本語のセリフをこなし、「ウンシン・スギル」(キム・ウンス+豊臣秀吉の韓国語読み「プンシン・スギル」)と呼ばれるようになったほどだ。「NHKで放送されている大河ドラマ『真田丸』に出演した俳優・高嶋政伸さん(北条氏政役)から『やはり韓国ドラマはクオリティーが高い。これぞ本当の大河ドラマだ』とメールが来ました。私の秀吉の演技が日本でも通用したのかなと思いました」。

 21日、ソウル市内の喫茶店で会ったキム・ウンスは、自身が演じた秀吉について、「コンプレックスの塊」と表現した。「司馬遼太郎の小説『覇王の家』を読んだら、秀吉を『史上、類を絶した大悪党』と書かれていました。卑しい身分で容姿もすぐれない劣等感からだと思い、役作りをしました」。

 「悪人でもかっこよく、美しく描くことができるという自信があったので、豊臣秀吉役を演じようと決心しました。美化するのではなく、独特の魅力がある人物として描くということです。秀吉を見ると、話し方・抑揚・立ち居振る舞いなどどれ一つとっても薄っぺらなものがありません。李舜臣(イ・スンシン)に敗れたという知らせを聞き、座ったまま湯飲みを割るシーンがありましたが、これはもともと、立ち上がって壁を拳でたたくというシーンでした。しかし、演出家に言って変えてもらいました。関白(天皇に代わって政務を統括する公家の最高位)が敗戦の知らせを聞いたからと言って、立ち上がって怒りを表現すれば権威があるようには見えません。そうした立ち振る舞いで魅力を生かそうと思いました」

 彼には「闇のチェ・スジョン」という別名もある。時代劇で何度も主人公を演じている俳優チェ・スジョンとは反対に、キム・ウンスは『大王世宗』『チュノ-推奴-』『太陽を抱く月』『カクシタル』など数々の時代劇で、主人公と対立する悪役を演じている。だが、「悪役俳優」のイメージが付いてしまうのではないかという心配はしていないそうだ。「一つの役をきちんと演じてこそ、別の役の話ももらえるというもの。秀吉をきちんと演じられる人に李舜臣の役も来るのではないでしょうか」。プライベートでは「親バカ」で「愛妻家」だ。腹黒い悪役を重厚に演じているキム・ウンスがいい意味で全く違うくだけた一面を見せることから、バラエティー番組のオファーも多い。

 秀吉役でよどみなく日本語のセリフをこなすことができたのは、1991年から97年まで日本で映画の勉強をした経験があるからだ。ソウル芸術大学を卒業した後、劇団木花で舞台俳優を5年ほどやったが、映画監督になりたいと言って辞めた。貧乏な舞台俳優の財産は結婚祝いのご祝儀だけ。朝刊・夕刊を400部配って辛うじて収入を得た。カンヌ国際映画祭の最高賞「パルム・ドール」を2回も受賞した今村昌平監督が設立した「日本映画学校」(現:日本映画大学)で映画演出を学んだ。日本でアシスタント・ディレクター生活をしていた96年、ひょんなことから韓国映画『極道修行・決着(おとしまえ)』に脇役で出演し、俳優としての活動を再開した。大ヒットした韓国映画『タチャ イカサマ師』(2006年)で群山のヤクザ、クァク・チョリンを演じて存在感を見せ、それ以降はドラマ出演のオファーが相次いでいる。

 大活躍しているとは言え、映画監督としてデビューできていないことを残念に思ってはいないのだろうか。キム・ウンスは「今村監督のような作品が作れるという確信が持てたら、その時にメガホンを手に取ろうと思います」と笑って答えた。

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