21世紀の韓国映画史を書くとするなら、そのうち一章はまるごとオ・ダルスに割かねばならないだろう。2002年に『海賊、ディスコ王になる』の端役で映画デビューして以来、これまで47本の映画に出演した。観客動員数1000万人以上を記録した韓国映画13本のうち7本に登場し、「千万妖精」というニックネームもある。パク・チャヌク、ポン・ジュノ、チェ・ドンフン、リュ・スンワン、キム・ジウンなど名だたる監督の作品で助演を務めた。いなくても問題なさそうな助演であっても、オ・ダルスが演じると、いないことが想像できない配役に浮上する。

 オ・ダルスが初の単独主演を務める映画『大俳優』が、先月30日に公開された。オ・ダルス演じる「ソンピル」は、大学路の演劇街で20年にわたり、「フランダースの犬」のパトラッシュ役をもっぱら演じてきた無名俳優。ソンピルは、「カンヌ・パク監督」(イ・ギョンヨン)の新作に助演として出演しようとするが、演技力不足で思うようにいかない。全く同じ演劇俳優として演技を始めたのに、「千万妖精」になったオ・ダルスはソンピルと何が違っていたのか。

■「悪役でも憐れみが感じられるように」

 昨年、オ・ダルスは「観客動員1000万人映画」3本(『国際市場で会いましょう』『暗殺』『ベテラン』)に出演した。「観客が飽きるのではないか」という質問に対し、オ・ダルスは「なぜ心配がないか」と語った。「むしろ私自身が、いやというほど『またこんな役だって?』と思うことがある。しかし観客は、そうでもないらしい。飽きるというより、なじみの姿を好んでいるようだ。ある人の匂いに慣れた、とでも言おうか」。

 オ・ダルスの「匂い」とは憐憫だ。オ・ダルスは、インタビューのたびに「悪役でも憐れみを感じられるようにすべき」と語る。『オールドボーイ』『甘い人生』でオ・ダルスが演じた悪役は、みすぼらしかったり、かわいげがあったりした。ポン・ジュノ監督が『グエムル』を撮った時、オ・ダルスにグエムルの声を演じさせたのも、こういう理由からだ。わけも分からないまま死んで行くグエムルに感情移入したオ・ダルスは、タオルをくわえて泣き、あやしげな声を上げた。

 「この人の中に残っている人間性、観客が憐れみを感じられる表情を見せる、という思いで演じている。演じる私自身が、自分のキャラクターに憐れみを感じられなければ、決して観客には愛されない。観客が私を好きだとするなら、たぶん、そんな私の心が通じたからだろう」

 オ・ダルスの相手役はソン・ガンホ、チェ・ミンシク、ファン・ジョンミン、リュ・スンリョン、キム・ミョンミンなど男性俳優がほとんど。オ・ダルスと共演した俳優たちは、口を揃えて「スポンジのように高い吸収力がある人」と語る。ソン・ガンホは「状況に没頭すると、あきれるほどにこちらを受け入れる」、キム・ミョンミンは「受けてくれるオ・ダルスがいるから、私も安心して(演技に)入れる」と語った。

■「おかしな俳優」「セクシー」

 オ・ダルスは、一団の俳優たちの間でもすぐ目に留まる見た目をしている。「ロバート・デ・ニーロより一つ多い」顔のほくろが印象的で、二重のない小さな細い眼は、オ・ダルスを善悪の枠組みに縛り付けない。オ・ダルス初の映画を演出したク・ジャホン監督は、パク・チャヌク監督に、こう言ってオ・ダルスを推薦したという。「本物のおかしな俳優が1人いますが、お会いになりますか?」。

 演技をしない時のオ・ダルスは、口数が少なく、人見知りしがちだ。『朝鮮名探偵』シリーズでオ・ダルスと仲良くなったキム・ミョンミンは「最初会ったときは、つんと澄ましていて、全てを手にした典型的な女優という印象を受けた」と語ったほど。『大俳優』公開前にインタビューしたとき、オ・ダルスは記者と共にマッコリを飲んだ。もともと酒好きというのもあるが、緊張をほぐそうという意図も見えた。マッコリを3、4杯たて続けに飲んでも、声の調子が変わることはなく、話が長くなるはずもなかった。リュ・スンリョンは『7号室のプレゼント』公開時のインタビューで、オ・ダルスについてこう語った。

「俳優たちに尋ねてみると、本当に『最高』だと言います。演技もそうですが、現場でほかの人に配慮したり、俳優として臨んだりする姿勢が立派、ということです。女性スタッフからも非常に人気がありました。すごくセクシーですね」

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