「私、ミュージカルって本当にイヤ! なんで突然歌出すの? セリフで簡単にやれば30分で終わるような、なんでもない話じゃない」「踊らないで歩いていけば30秒で行けるのに」…。まったくこの世の中でミュージカルという公演形式そのものをこれほど容赦なくたたき、風刺するなんて一体これは何なんだ? それは今年の年末年始に上演される大型ミュージカルの中で唯一の新作『オケピ!』(三谷幸喜原作、ファン・ジョンミン演出)だ。

 今年、主演映画『国際市場で逢いましょう』と『ベテラン』で観客2000万人を動員した俳優ファン・ジョンミンが最も関心を持っていたのが実はミュージカルだった。制作は妻で公演企画会社SEMカンパニー代表のキム・ミヘ。演出は自身が手がけ、さらに主演のコンダクター役(オ・マンソクとのダブルキャスト)まで引き受けた。しかし、『笑の大学』など知的でありながらも冷笑的な喜劇で有名な日本の人気脚本家・三谷幸喜はミュージカルでも実力を発揮できるのだろうか? 人気俳優チョ・スンウの出演が白紙化されたのも不安要素だった。

 先週末、ついに幕を開けたこのミュージカル作品は、一言で言えば毎回ほぼ同じメニューで食傷気味だったミュージカルというコース料理に登場した、思いがけない珍味だった。そうだ。ミュージカルだからといって、壮大なファンタジーや摩訶不思議なストーリーでなければならないと誰が決めたと言うのか。『オケピ!』とは、「オーケストラ・ピット(orchestra pit)」、つまりステージの下でオーケストラが演奏するために設けられた空間の日本式の略語で、華やかなミュージカル公演でもスポットライトを浴びることのない場所のことだ。『オケピ!』はそのファンタジックとは言えない、平凡でそれぞれの事情を抱える人々の物語だ。

 コンダクターと12人の奏者にはアンサンブル(助演俳優)がおらず、その全員が自分の物語の主人公になっている。見えっ張りのコンダクターは妻のヴァイオリン(チェ・ウリ)と別居中で、ハープ(リナ)のことが気になってアプローチしている。ヴァイオリンは新恋人のトランペット(チェ・ジェウン)と別れたことを隠している。ピアノ(ムン・ソンヒョク)は譜面が複雑だと演奏する「振り」だけし、無愛想なオーボエ(キム・テムン)は昔別れた娘との再会に胸を焦がしている。これらの物語が終盤にすべて一つになり、壮大な結末を迎える…のかと思っていたら大きな間違いだ。それぞれのエピソードは劇中のミュージカルが終わるとそのままストップする。まるで人々のリアルな日常のように。

 最初の歌が開演から15分後に登場するほどセリフが多いが、ミュージカルらしく挿入歌もなかなか魅力的だ。クラシック、ジャズ、ヒップホップ、バラードから古典的なミュージカルソング、唱歌風の歌まで広いジャンルにわたり登場するが、さらに興味深いのは歌詞だ。「猫が2本足で歩き回り」(キャッツ)、「仮面をかぶり女に歌わせて」(オペラ座の怪人)、「注射をしたら急に性格が変わった」(ジキル&ハイド)など、有名ミュージカルをパロディーにして、「ミュージカルは第1幕が終わったら帰ってもいい。第2幕は別にこれといった内容がないから」というセリフに至っては、腹を抱えて笑うしかない。今年初演されたライセンス・ミュージカルの中で最も優れた作品が、年末にやっと幕を開けた。

 公演はソウル市内のLGアートセンターで来年2月28日まで。

 

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