久しぶりのインタビューだった。イ・ビョンホン(45)は「楽しみです」という意味深長なあいさつをして席に座った。

 このところ本当にいろいろなことがあった。イ・ビョンホンは昨年、20代女性2人から動画を口実に50億ウォン(約5億円)を要求されるという脅迫事件に巻き込まれた。このときの詳細なやり取りが公表されてしまい、俳優としてのイメージがかなり傷付いた。今年3月に一児の父になったが、その喜びを素直に表現することもできなかった。その間に4本目のハリウッド映画『ターミネーター:新起動/ジェニシス』と韓国映画『侠女:剣の記憶』が封切られたが、どうしても顔を出さなければならない場に出ただけだった。

 そのイ・ビョンホンがインタビューを受けた。11月19日公開の『内部者たち』(ウ・ミンホ監督)のためだ。訴訟でつらかったときに世間の冷たい視線に耐えながら撮影した作品だ。ひそかに、そして時に遠慮なく韓国を動かす人々の物語を重量感と共にスピーディーに描いた政治ドラマで、イ・ビョンホンは「政界ヤクザ」のアン・サング役を演じた。一時は会長とまで言われ、向かう所敵なしだったが、一瞬にして裏切られて転落、復讐(ふくしゅう)のやいばを研ぐ男だ。

 3時間40分に達する最初の編集版を2時間10分まで減らして完成させた作品だが、イ・ビョンホンは役に完全にはまっており、観客をぐっと引きつける。表情一つ、セリフ一つでさまざまな出来事を思い起こさせる熱演だ。つらい時期にその重いプレッシャーを抱えてカメラの前に立った俳優の、恐ろしいまでの役の入れ込み具合には驚くばかりだ。

 イ・ビョンホンは決心したかのように口を開いた。「実際、私のせいで監督をはじめ大勢のスタッフの皆さんに迷惑がかからないようにしなければという気持ちしかありませんでした。私ができることは、私が引き受けたことに集中して全力を尽くすことだと思いました」

 「心労ですか。演じることは私の仕事です。でも、それに伴って映画の仕事をしている方々に迷惑がかかるのではと思うと、一生懸命やるしかありませんでした。自分の役を一生懸命やるしかないという一心でした。(冷ややかに見る世間の目に)耐えられる方法は、ただ自分の仕事を一生懸命することではないかという気がします」

 イ・ビョンホンは癖のある全羅道方言をセリフに取り入れ、これまでのどの作品でも見られなかった一面を見せた。

 イ・ビョンホンは全羅道方言を取り入れて演じたことについて「チャンスが与えられたらトコトンやってやるという俳優がいるかもしれませんが、私はやったことがなかったので、実はプレッシャーでした。『方言が気になって物語に入り込めなかったらどうしよう』とも思いました」と打ち明けた。「絶対に方言を使えというわけではない」と監督に言われて悩んでいたが、全羅道出身の舞台俳優に指導を受けて感覚をつかんだ。その結果はいかに? それはメディアで報じられている通りだ。ディテールが際立つ方言のセリフに「今まで隠していたのか」という声が上がったほどだ。
 
 もちろん、『内部者たち』はイ・ビョンホンだけの映画ではない。メーンキャストの3トップを成すチョ・スンウ、ペク・ユンシクのほか、イ・ギョンヨン、キム・ホンパ、ペ・ソンウ、チョ・ジェユン、キム・デミョン、キム・ビョンオク、チョン・マンシクら最強の俳優軍団が共演している。イ・ビョンホンも「顔ぶれがすごい。編集版を見てびっくりした」と語った。そして「助演とか脇役とかいうのではなく、この映画ではみんな『オレが勝つかお前が勝つか見ていろよ』という感じがしました。撮影途中の編集版を見て刺激受けました」と話した。

 中でも緊張感漂う気迫の闘いを繰り広げる熱血検事役チョ・スンウとの共演は忘れられないものになった。

 「チョ・スンウさんはとにかくすごくヒット作が多いでしょう? 作品を見るたびに『いい俳優だなあ』と思っていましが、いざ2 人で共演してみて、並大抵の俳優じゃないと実感しました。本当にうまいな、いい俳優だなって。だから、すごく驚いたし、同じ作品をやりながら友人にもなれて良かったです」

 「スキャンダル・メーカー」のイ・ビョンホンはなく「俳優イ・ビョンホン」として再び人々に受け入れられるまで、さらに多くの時間がかかるのだろうか。おそらく、その全てはスクリーンを見詰める観客の目にかかっている。封切りを控え、プレッシャーはないのか。イ・ビョンホンは「それはどんな作品のときも同じです。プレッシャーと緊張感は映画の公開時には付きものです」と語った。

 『内部者たち』のヤクザ、アン・サングは検事から「将来、どんな人物として人々の記憶に残りたいんだ?」と予想外の質問をされる。薄っぺらいこと極まりないアン・サングが薄笑いを浮かべて答えるシーンは独特な味わいがある。イ・ビョンホンに同じ質問を投げ掛けたところ、短い答えが返ってきた。

 「いつも同じような答え、いえ、全く同じ答えですね。いい俳優として人々の記憶に残りたいです」

ホーム TOP