▲製作費1億5000万ウォンという『西部戦線』の戦車(写真左)。松の木の板で組み立て、墨汁を塗った『思悼』の米びつ(同右)。/写真提供=ロッテ・エンターテインメント、ショーボックス

 主演顔負けの助演俳優を「シーン・スティーラー(scene stealer)」という。場面を盗む人という意味だ。今回の秋夕(チュソク=中秋節、今年は9月27日)連休シーズンに公開される韓国映画の大作3作品は、俳優ではなく小道具が目玉だ。『思悼』(イ・ジュンイク監督)の米びつはタイトルロールの思悼世子(ユ・アイン)やその父・英祖(ソン・ガンホ)と同じくらい観客の心を揺さぶる。『西部戦線』(チョン・ソンイル監督)では戦車が、『探偵:The Beginning』(キム・ジョンフン監督)ではトレンチコートが「シーン・スティーラー」として登場する。

■90×120×100センチの監獄

 映画『思悼』の米びつは、正殿の前に置くだけでも重量感やドラマ性を感じさせるものでなければならなかった。大きすぎれば英祖との対比が合わないし、小さすぎても思悼世子が閉じ込められたとき窮屈すぎる。カン・スンヨン美術監督は「米びつは8日間の出来事を描けるような物でなければならなかった。いろいろ検討した末、史料に出てくる米びつの70%ほどの大きさで作った」と語った。

 「米びつの話(思悼世子が英祖により米びつに閉じ込められ、8日後に餓死した話)は誰もが知っている話なので、大きさや質感に悩んだ。大きすぎてもいけないし、小さすぎてもいけない。大げさなものも良くないし、重量感がなさ過ぎても良くない…。簡単そうに見えて、そこが一番難しかった」

 松の木の板で分解・組み立てしやすいように作り、墨を塗った。クギと金づちは鍛冶屋で鋳鉄により製作した。米びつに巻く太い綱、米びつに載せるふたは「息が苦しくなり死を連想させる米びつ」になるよう、いろいろ考えて生み出された視覚的な装置だ。米びつ製作費には1000万-2000万ウォン(100万-200万円)かかった。合計三つ作られたが、一つは撮影のために壊し、もう一つは壊れて廃棄された。残り一つは全州映像委員会に寄贈されたとのことだ。

■1億5000万ウォンの小道具

 『西部戦線』は1953年の6・25戦争(朝鮮戦争)休戦まであと三日というとき、韓国軍のナムボク(ソル・ギョング)がなくした極秘文書が、朝鮮人民軍の戦車兵ヨングァン(ヨ・ジング)の手に渡ったことから起こる出来事を描く作品だ。制作会社は戦車に苦心した。カン・ミンギュ・プロデューサーは「ロシアからT3485戦車を持ってくる方法、あるいは中国で特注する方法、『マイウェイ 12,000キロの真実』(2011年)のように英国から砲塔だけ持ってくる方式などを検討したが、安全性や整備上の問題で保留となった。結局、『海賊:海に行った山賊』(14年)で船を作った韓国の業者に依頼し、設計から製作まで5カ月かかった」と語った。

 戦車は、この映画の中でナムボクとヨングァンに次いで3番目に重要な役だ。内部撮影シーンも多く、兵士たちが乗るため、重量感がカギだった。鉄板で作られており、実際の戦車(25トン)より軽いとは言え、重さ15トンに達する。「運転はおもちゃの車のようにレバーが2本だけだった。押せば前進、引っ張れば停止。動かすときは安全のため監視カメラを戦車内部に取り付けた」。製作費は1億5000万ウォン(約1500万円)。『西部戦線』はこの戦車以外にも別の映画で使われた戦車を2両用意し、爆破シーンなどに使った。現在は南楊州総合撮影所に展示されている。

■『刑事コロンボ』スタイル

 刑事や探偵が着ると「様になる」服がある。映画『探偵:The Beginning』で漫画喫茶店の店主カン・デマン(クォン・サンウ)は、トレンチコートを翻して歩くベテラン刑事ノ・テス(ソン・ドンイル)の後ろ姿に心を奪われる。クローゼットをひっくり返して古びたトレンチコートを引っ張り出し、事件現場に出動して、2人の「非公式合同推理作戦」が繰り広げられる。

 第一次世界大戦中に英国で洋服店を開業したトーマス・バーバリーがレインコートとして開発した「バーバリー・コート(トレンチコート)」は戦後にファッション・アイテムとなり、映画『カサブランカ』『哀愁』やドラマ『刑事コロンボ』などに登場した。

 制作会社CJ E&M広報チームのハン・ウンス課長は「『刑事コロンボ』をモデルにした『探偵:The Beginning』のトレンチコートはちょっと古びて見えるが、着やすいのが特徴。市販のトレンチコートにはクラシカルなものがなかったので、衣装チームが作った」と説明した。製作費は1着約100万ウォン(約10万円)だ。

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