▲クルーズ・コレクション2016が終わった後、バックステージで会ったペ・ドゥナとニコラ・ ジェスキエル。2人は「好きな映画や音楽について話をしたいたら、とても気が合って時間のたつのを忘れるほど」と語った。/写真提供=ルイ・ヴィトン

 ファッションデザイナーのニコラ・ ジェスキエルは、今最も会ってみたいファッション関係者の一人に挙げられる。1991年、ジャン=ポール・ゴルチエのアシスタントとしてスタートし、1997年にはバレンシアガからモーターサイクル・バッグを発表、世界的に人気を集めた。2001年に米国ファッションデザイナー協会による「世界のデザイナー」賞を受賞、2006年には米誌タイムが選ぶ「世界で最も影響力のある100人」に入った。2013年秋からルイ・ヴィトンに入り、レディースファッションを総括。160年の伝統を誇る同ブランドに革新をもたらした。革や花、茶色のモノグラムなど、ルイ・ヴィトン固有の素材を生かしながら、体を官能的に見せるシルエット、異国の香り漂う柄を加え「過去と未来が絶妙に絡み合うデザイン」と称賛された。

 5月初めに米国西部のパームスプリングスで行われたルイ・ヴィトン・クルーズ・コレクション2016は、ニコラ・ ジェスキエルの才能と自信感があふれる舞台だった。荒涼たる砂漠に降り立った宇宙船のような大邸宅で、ニコラ・ ジェスキエルは旅先で着るような服を披露。単色のジャケットとソフトな印象のロングスカートの対比が際立っていた。客席から拍手と歓声がわき上がり、バックステージはニコラ・ ジェスキエルに一目会おうという人たちで込み合っていた。しかし、ニコラ・ ジェスキエルがフランスの女優カトリーヌ・ドヌーヴ、香港出身の女優マギー・チャン、オーストラリアのモデルのミランダ・カーを制し、誰よりも先に迎えたのは韓国の女優ペ・ドゥナだった。

 「ポン・ジュノ監督の映画『グエムル-漢江の怪物-』を5回見た。特にペ・ドゥナさんの演技が印象的だった。ふと向ける眼差し、演技のように見えない自然な動きが脳裏に焼き付いた。あ! 僕はペ・ドゥナさんの話をしているときが一番いい。ペ・ドゥナさんは僕を生かしてくれるミューズ」

 翌朝、パームスプリングスの超高級ホテルの野外プールで会ったニコラ・ ジェスキエルとペ・ドゥナは手を取り合い、子どものように笑った。実際にニコラ・ ジェスキエルは昨春ペ・ドゥナが映画で着ていた赤紫色のトレーニングウエアからインスピレーションを得て、革製ドレスを制作した。

 ペ・ドゥナは「昨年の今ごろ、ニコラ・ ジェスキエルさんと初めて会ったのだが、私のことを心から喜んで迎えてくれるデザイナーは彼が初めてだった」と語った。「ずっと前から知っていたように、気が楽だった。ニコラ・ ジェスキエルさんは映画ファンだし、公演や美術、建築が特に好き。2、3カ月に新作アイテムを40-50着発表しなければならない厳しいスケジュールの中、たびたび私の『インスタグラム』(写真共有ソーシャル・ネットワーキング・サービス=SNS)をチェックして『ドゥナ! その展示はどうだった? その公演は何がよかった?』と聞いてくる」

 ペ・ドゥナはこの日、アンディ&ラナ・ウォシャウスキー姉弟とタッグを組んだ米国ドラマ『センス8』の予告編が公開され、浮かれていた。同作はソウル、ケニア・ナイロビ、英国ロンドンなど8都市にそれぞれ暮らしているが、テレパシーでつながっている8人の物語が全12話で繰り広げられる。ペ・ドゥナは「武術に長け、殴り合いでストレスを解消する韓国の財閥総帥の娘役を演じた」と語った。

 「私は見た目より真面目な性格。キレイな顔ではなく、演技力もないので、台本を読んだらそれを全身で吸収し、ひしひしと感じなければ、指1本すら動かせない。そんな面で、ニコラ・ ジェスキエルさんの服と私は似ている。彼も無から有を創造するするより、昔からの文化や伝統を生かしながら新たな志向へと進んでいく人」

 ペ・ドゥナは今回、一人で渡米。映画『クラウド アトラス』のオーディションを受けるときも、一人で飛行機に乗った。「役になり切っているのに、横で『コーヒーいかがですか』『寒くないですか』などと言われたら、私自身に戻ってしまうから」。最初は何度も泣いた。とても寂しくて。しかし、慣れない言葉を覚えるのには最高だった。ペ・ドゥナは「私はとても運がよくて、ニコラ・ ジェスキエルさんやアンディ&ラナ・ウォシャウスキー姉弟、ポン・ジュノ監督など、素晴らしい人たちと仕事ができた」と話す。「不思議だが、彼らは心が通じている。博識で想像力が豊かで、世界観が広い」

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