スターインタビュー
インタビュー:孤独に耐えたソン・ヒョンジュ=『悪の年代記』
樹齢2000年以上のセコイアの木が倒れるのは重さのためだ。上へ上へと伸びていくが、大きくなればなるほど危なくなる。安全に成長する道はない。
5月14日公開の映画『悪の年代記』(ペク・ウンハク監督)で刑事チェ・チャンシク(ソン・ヒョンジュ)は、昇進を前に怪しい男に拉致され、その男を殺してしまう。自分が引き起こした事件を隠ぺいしようとしてまたも殺人を犯し、より大きな犯罪に巻き込まれていく。チェ・チャンシクは初めて、自分自身を振り返る。
ソン・ヒョンジュは「島流しにされたように孤独だった」と語った。犯人が捜査を指揮する形になり、チェ・チャンシクは誰にも真実を打ち明けられない。しかし、観客は映画開始から10分もたたないうちに、事件の表面ではなく、内部へと引き込まれていく。体操選手・梁鶴善(ヤン・ハクソン)の技のような高難度の演技を、俳優たちはやり遂げた。
「ペク・ウンハク監督や俳優、スタッフに大きな借りができた。甲状腺がんの手術を受けたため、撮影が1カ月近く延びた。私のために200人のスケジュールがずれたなんて。傷が癒えるのを待ちながら、もどかしかった」
昨夏釜山でクランクインしたが、楽しいことなどなかった。マ・ドンソク、パク・ソジュンら共演者たちは「先輩は早く帰って休んでください」と言い、自分たちだけで酒を飲みに行った。ソン・ヒョンジュは真っ暗な部屋でろうそくに火を付け、シナリオに没頭した。見えるようで見えないチェ・チャンシクの心理に入り込んでいった。ソン・ヒョンジュは「どん底の感情を引き出すのが大変だった。あんな風に孤独に撮影に臨んだのは初めて」と話した。
「『リバー・ランズ・スルー・イット』や『ショーシャンクの空に』のような、静かな物語にひかれる。『悪の年代記』も派手なアクションはなく、心理を描写しなければならない映画。緊張感がよくて選んだのに、誰に不平を言えるのか。チェ・チャンシクは加害者で悪い奴だ。生活感があり、適度に堕落していて『これくらいでいいだろう』という感じの刑事。しかし、罪を犯したからといって皆が悪人なのか、尋ねてみたかった」
ソン・ヒョンジュンは演劇映画科を卒業後、劇団に所属していたが、1991年にタレントになった。名前のある初の役は作男ナクチョル。2012年にドラマ『追跡者THE CHASER』(SBS)でSBS演技大賞を手にし、翌年映画『かくれんぼ』で観客560万人を動員するまで、視聴者にとっては憎らしくない程度の夫、近所のおじさんのようなイメージだった。ドラマ『初恋』で演じた無名の歌手チュ・ジョンナム役、『バラ色の人生』の浮気夫パン・ソンムン役がまさにそうだ。
「チャンスを得たというより、愛されたという方が正しいかもしれない。母親やおばくらいの年齢の女性ファンが多かったが、ここ4、5年、とても遠くに来てしまったと思うことがある。あのときが懐かしい。月の満ち欠けのように、また戻るつもり」
ソン・ヒョンジュはやきもきしない。「後輩たちに『急いで進もうとせず、ゆっくり行け』と言っている」というソン・ヒョンジュは、25年かけて少しずつ成長してきた。作男から大統領(ドラマ『スリーデイズ-愛と正義-』)まで、演じた「他人の人生」は100個ほどになる。俳優にとって、配役に染み入るのと同じくらい、役から離れ自由になることも重要だ。ソン・ヒョンジュンは「数学ではないので公式はないが、払い落とさなければ生きていけない」「チェ・チャンシクと別れるのはつらかった。山にも行ったし、自転車にも乗った」と語った。最近撮影しているのはホラー映画『ザ・フォン』(仮題)。1年前に死んだ妻から夫のもとに電話がかかってきたことから繰り広げられるエピソードを描く。『かくれんぼ』も『悪の年代記』も『ザ・フォン』も、ヒット作がなかったりまだ新人の監督の作品だが、ソン・ヒョンジュは「シナリオが魅力的で、監督の真心が伝われば出演する」と話す。
「生まれ変わっても俳優になる」というソン・ヒョンジュにその理由を聞くと「俳優は世を映す鏡」と言って冷ややかに笑った。『悪の年代記』は、世の中を逆さに映し、正しく見せる鏡。このように生きろと教訓のように伝えるのではなく、あんな風に生きてもよいのかと観客自らが反省するようになる。インタビューが終わった午後9時10分、ソン・ヒョンジュは弁当で遅い夕食を済ませた。