▲キム・ヒソンは「若くしてデビューし、ずっと仕事ばかりだったのでとても心残り。学生時代に戻ることができるなら、普通の人と同じように学校に通ってみたい」と語った。/写真提供=MBC

 スターが幻想を現実にする人だとするなら、女優キム・ヒソン(37)は今もスターだ。キム・ヒソンは現在放送中のMBC水木ドラマ『アングリー・マム』で女子高生に扮(ふん)し、高校に潜入する34歳の主婦を演じている。ドラマに登場する学校の先生も同級生たちもみんなその正体に気付いていないという設定は、『ロード・オブ・ザ・リング』をリアリズム映画として見せるほど無理がある。ところが不思議なことに、実際にドラマを見ていると、それほど違和感はない気がする。キム・ヒソンが女子高生に見えなくても、その代わりを務める30代後半の女優はあまりいないだろうから。

 4月21日、ソウル・汝矣島のMBCスタジオで会ったキム・ヒソンは、太ももの半分以上があらわになった制服のスカートをはいて撮影していた。制服で演じ始めて1カ月たつが、今でも違和感があるのかと聞くと、キム・ヒソンは「最近の若い人たちが見ると、私のスカートはロングスカートだそうです」と語った。キム・ヒソンはKBS週末ドラマ『銭湯の男たち』(1995年)で、大人世代には全く理解不能なくらい自由奔放な「X世代」の少女役でブレークした。もう20年前のことだ。

 「京畿道にある高校で撮影するんですが、本物の女子高生のスカート丈を見てビックリしました。そのスカートをはいて学校のフェンスを軽々と飛び越えて通っています。化粧も濃いし、最近の子ってみんなそうなんですよ」

 キム・ヒソンが演じる主人公チョ・ガンジャは高校時代、「ポルグ浦の刺し身」と呼ばれ、恐れられた「スケバン」だった。ところが、娘(キム・ユジョン)がいじめられて神経科の病院に入院すると、法の力を頼りにせずに自ら報復に出る。かつてスケバンだったという設定なので、かなり高難度のアクションをこなさなければならない。映画『THE MYTH/神話』(2005年)で共演したアクション界のスター、ジャッキー・チェンに「アクション指導をしてほしい」とお願いしたりもした。ジャッキー・チェンは「頼みを聞いてあげられなくて申し訳ない」というメッセージと共に、撮影現場に差し入れ用のケータリング・カーを手配した。
 

 「実はジャッキー・チェンさんにガンジャの『ケンカの師匠』役での特別出演もお願いしたのですが、ほぼ『生放送』と言っていいくらい撮影スケジュールがタイトなので実現しませんでした」。キム・ヒソンはこのところ午前4時に帰宅し、ほんの少し寝て7時に家を出るという生活の繰り返しで、6歳になった娘ヨナちゃんの顔を見る暇もない。「それでもヨナはドラマを見て、映像メッセージで『バングル(ガンジャがなり切っている女子高生の名前)』と呼んでくれます。ママが1カ月以上、家に帰っていないんですから、うちの娘は家出しちゃうかもしれませんね(笑)」。
 
 これまでなかなか「いい演技をしている」と褒められたことがなかったが、今回のドラマではよく言われるようになった。これも娘のおかげだと思っている。「ママが私の母親なのが嫌なの」と当たる十代の娘がいじめのために入院、病院で魂が抜けたようになったり、そんな娘を抱き締めて「ママはいい子ちゃんの娘が嫌」と泣きながら言ったりするシーンは、演技なのかリアルなのか分からないほどの熱演だった。「母性愛を表現するのにやり過ぎというのはないと思います。(娘役の)キム・ユジョンさんは私の子どもではありませんが、母親ならみんなそうなんじゃないかと思いながら演じています」

 それでも天下のキム・ヒソンがただの母親役というのは少々もったいない。娘の同級生役を演じている22歳の俳優ジスとはちょっといい感じのシーンもある。「予想外の化学反応(俳優同士の演技の呼吸)が起こっていると思います」。そう言った本人もちょっと気恥ずかしかったのか、大爆笑した。演出のチェ・ビョンギル・プロデューサーが隣で「どんな化学反応が起こったの?」と問いただすと、話を続けた。「ドラマを通じて本当にぜいたくさせてもらっているんです。視聴者の皆さんもいい印象を持って見てくださっているので良かったです」。16歳差の男優とのラブシーン(?)について語りながら、指で髪をいじり、ほおを赤く染めるのは、19年前の姿そのものだった。

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