▲俳優ファン・ジョンミンは女優チョン・ドヨンと共演した映画『ユア・マイ・サンシャイン』(2005年)や、ヤクザの頭(かしら)役のセリフが人気を呼んだ映画『新しき世界』(12年)などで演技力とヒットメーカーぶりが知られるようになった。しかし、本人は「私はヒットメーカーではないので観客数の予想なんてできない。映画『国際市場』がきっかけで父親世代と息子世代が会話するきっかけになればうれしい」と語った。/写真=キム・ヨンジョン客員記者

 映画『国際市場』(ユン・ジェギュン監督)がヒットしている。その立役者は、どう見ても波瀾(はらん)万丈の現代史を全力で生きた父「ドクス」を演じたファン・ジョンミン(44)だろう。公開直前に会ったファン・ジョンミンは「ドクスは私の父親、観客の皆さんの父親、あるいは私たちみんなの父親かもしれない。近所によくいる平凡な父親として描きたかった。実際に『おやじ、この程度なら幸せな人生だろ? でも、本当はつらかったんだよ』というドクスのセリフは20歳でも70歳でも、男なら誰もが感じる感情のはずだ。よくありがちなそういうセリフが説得力を持つように、俳優ファン・ジョンミンが演じている役だということを観客が忘れるよう、平凡な父親に見せようと思った」と語った。

 ドクスは興南撤収(6・25戦争〈朝鮮戦争〉時の1950年12月、難民約10万人が北朝鮮から韓国に海路で避難した作戦)、西ドイツ炭鉱出稼ぎ労働、ベトナム戦争を経験した後、子どもたちに「随分前から言うことを聞かなくなった」と不満を言われるような頑固な年寄りになり、釜山市場にたむろしている。ファン・ジョンミン演じる父親は生まれも育ちも馬山だ。「完全に『怖い人』。自分が小さかったころの父を考えると『水持って来い』という一言しか覚えていない。食べるのがとても早くて、『飯だ』と言われて行くと、父はもう食べ終わっている(笑)。映画を撮って、やりたいことをして生きてきた私の人生にあらためて感謝した。初めて芝居をすると言ったとき、母は泣いて反対したが、父は何も言わなかった。そういう姿が、私たちが思う父親の姿だったと思う」

 ファン・ジョンミンは映画『国際市場』の持つパワーについて「韓国人なら誰もが知っている歴史、私たちのDNA、細胞、無意識の中に刻まれた物語からわいてくるのだと思う。70代になったドクスが映画の結論だが、これをどう20-30代の若いころの姿につなげ、一貫させるかで悩んだ。人生の最前線である市場の通りで人生に耐えてきたお年寄りの打たれ強さ、一本気な感じはそうした経験の蓄積だろうから」

 撮影のため、ファン・ジョンミンはソウル市鍾路区のタプコル公園に行き、お年寄りたちを「観察」した。伝統的な韓服(韓国の伝統衣装)ではなく、すそ幅の広いスラックスに薄手のジャンパーというドクスの衣装を、東大門市場の高齢者向け衣料店で買った。お年寄りは真夏以外は肌着を着ていると聞き、昔ながらの形のパンツまで買いそろえた。「額、ほお、鼻を除き、首まで付ける高齢者の特殊メークは一度やるのに2時間50分かかった。特殊メークより重要視したのは歩き方、動きやシルエット、話し方、眺めるような目の感じ、手の震えといった細かい部分。釜山国際市場の店の前に高齢者の特殊メークをして座っていたら『おじいさん、これいくらですか?』と聞かれた」と言って笑った。

 ユン・ジェギュン監督は「40代でも恋愛物ができる俳優だから」という理由でファン・ジョンミンをキャスティングしたという。ファン・ジョンミンも「60代になっても恋愛物を演じたい」と話した。「刃物を振り回すヤクザの役は物真似に過ぎないが、恋愛は私も観客の皆さんも経験がある。『もう一人では来ないと約束してくれ』などしびれるようなセリフも、恋の経験がある人なら誰もが共感するだろう」

 「観客がどれくらい入ると思うか」と尋ねると「私はヒットメーカーじゃないから。ヒットさせた経験のある俳優なら分かるだろうが、私はよく分からない」と言って手を横に振った。だが、この映画に対するファン・ジョンミンの願いは別のところにある。「実は私はいまだに父が苦手。VIP試写会後も母に電話を掛け『映画を見て父さんは何と言っていた?』と聞いてみた。若い人たちが親に『一度一緒に見に行かない?』と声を掛けてくれたらうれしい。そうすれば少し会話もできるだろうし、遠い昔の話のようだが、実は1世代しか離れていない世代差も少し縮まるのでは」

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