▲不当解雇されたスーパーのレジ係役を演じた女優オム・ジョンア(中央)は、「映画を見て、観客が非正規雇用労働者の声に耳を傾けようとするなら、それ以上望むことは何もない」と話した。/写真提供=リトル・ビッグ・ピクチャーズ

 「いまだに折り畳み式携帯電話を使っているのは僕だけ」と文句を言う息子(EXOのD.O.)に、母親ソニ(ヨム・ジョンア)は「携帯電話、すぐに変えてあげる。ママ、正規雇用になるじゃない」と答える。手当もない残業を嫌がらず、大型スーパーのレジ係として長く働いた。「5年働いたら正規職にする」という会社の約束を固く信じていた。しかし、会社は一方的にパート従業員に解雇を通知する。迷惑な客の前でひざまずく屈辱を受けても我慢しながら、生計を立てるため辛抱していたパート従業員たちは「私たちの話も一度でいいから聞いてほしい」と訴える。しかし、会社側は無視。パート従業員たちは労働組合を作り、生まれて初めてストライキを起こすことに…。

 韓国全体の賃金労働者は1878万人、そのうち32.4%の608万人が非正規雇用だ。11月13日に公開された映画『カート』(プ・ジヨン監督)は、スーパーの女性レジ係たちのストライキを通じて、他人事ではない非正規雇用問題に正面から向き合う。主演女優ヨム・ジョンアの好演が光る。公開前、ソウル市鍾路区三清洞のカフェで会ったヨム・ジョンアは「周りの小さな声に耳を傾け、一度振り返るきっかけになれば」と語った。

-共演者キム・ガンウは「自分が出た映画を見ながら泣いたのは初めて」と言っていたが。

 「登場人物たちの感情の機微が上手く描かれていたようで、うれしかった。私は労働組合の座り込みを見ると『なぜあんなことをしてるんだろう』と思いながら通り過ぎていた普通の人だった。ところが私が『当事者』になって数カ月過ごしていたら、とても悔しかった。自分のミスではないのに不当な扱いを受け、誰も自分の話を聞いてくれないので。最近では、スーパーに買い物に行くと、レジ係の方が他人のような気がしない」

-そのように悔しく不当な経験はあるか。

 「私は悔しいことを我慢するタイプ。ところが映画の状況は、我慢できる限界を超えているではないか。ほかの人に誘われて行ったおばさんが『私と家族』ではなく『私たち』のための選択をする。窮地に立たされた人たちの気持ちが一つになるのを感じたその瞬間は、言葉で表現するのが難しいほど、とにかくすごかった。まるで実際のことのように驚くべき経験だった」

-これまではお金持ちの奥様のような、華やかな役のイメージが強いが。

 「仕事や生活が違っても、母親なので、また女性なので、基本的な感情は同じ。わざとおばさんパーマをかけ、顔にシミを描いた。腰を少し曲げ、周りにいる普通のおばさんのように見せようとした」

-映画の中でパート従業員たちを懐柔し、追い出すのも同じ従業員だ。

 「『子ども3人を育てながら、塾の費用、食費がどれぐらいかかるのか知っているか』と会社側に立ち、工作を行うチェ課長(イ・スンジュン)も悪い人ではない。自分も給料をもらって生活をしていくため、与えられた仕事を忠実にしているだけのこと。そのような人々同士が戦わなければならない。それが悲しかった」

-社会的に敏感な問題なので、プレッシャーにはならなかったか。

 「むしろ私は何とも思っていないのに、周りが心配してくれた。私はもともと夫の言うことをよく聞くが、キスシーンのある映画、ドラマは嫌がっていた夫が『元気を出して頑張れ』と応援してくれた。無関心だったことが映画を通じてスポットライトを浴び、関心を引くようになるのは感謝すべきことだと思う。なぜパート従業員たちは髪を引っ張られ、放水砲を浴びながらもカートを押すのだろうか。映画を見て、観客が一度耳を傾けてみようと思ってくれたら、それ以上望むことは何もない。私自身もこの映画が、選択してよかったと自分を褒めてあげられる作品になることを願っている」

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