伝統芸術演出家のチン・オクソプ氏は今年初め、舞踊家の米国公演に先立ち、次のような冗談を言った。「一緒に舞台に立つ歌い手のチャン・サイクさんはミュージカルに出るアイドルのようなもの。公演が軌道に乗れば、出演する必要がないから」。ミュージカルに出演するアイドルグループのメンバーは「客引き用」ということだ。

 しかし今夏ミュージカル公演を行うこの 2人は確実に「アイドルのレベル」を超えている。新作大型ミュージカル『ドラキュラ』に出演するJYJジュンス(27)と『プリシラ』に出演する2AMチョ・グォン(24)だ。痛ましい悲劇『ドラキュラ』と底抜けに明るい喜劇『プリシラ』は対照的な作品だが、2人の優れた歌唱力や演技はもちろん、役に入り込む情熱も素晴らしい。

■『ドラキュラ』のジュンス

 「どうか、あなたの居場所を見つけて戻ってきて…」第1幕の駅のシーン、ドラキュラが生まれ変わったかつての恋人に400年ぶりに会い、告白するシーンで、泣き叫ぶかのように歌うジュンスは悲しみと切なさが極みに達していた。今年初めのインタビューで「感情を百パーセント込めて歌うと精根尽き果て、立っているのもつらいけれども、ウソの感情は見せたくない」と言っていたが、今回の公演でもその通りだった。

 登場シーンからジュンス独特の声はドラキュラの陰鬱(いんうつ)なムードに妙に合っていた。初めは低音が少し弱い気もしたが、第2幕になると鬼気と神秘が一つになったような発声が徐々に何かを訴える大きな力になっていく。赤い目をむきヒロインを誘惑したり、不気味な笑みを浮かべて首にかみ付くシーンでは「ジュンスはセリフがなく歌ばかり続くミュージカルでなければできない」という批判がむなしく響く。ただ、ジュンスがヒロイン・ミナ役のチョ・ジョンウンと一緒にいるシーンでは、まるで叔母とおいのように見えて違和感を感じた。

■『プリシラ』のチョ・グォン

 「優しい男もかわいい男も悪くはない。毎日楽しくお金を使えなければいらないってこと!」。ドラァグクイーン(女装した男性ショーパフォーマー)アダムを演じるチョ・グォンがロープにぶら下がって天井から降りてきて、マドンナの『マテリアルガール』を歌うと、「かわい過ぎて死にそう!」と客席から歓声が巻き起こった。ドラァグクイーン3人がバスに乗ってオーストラリアの砂漠を横断し、家族という存在の意味に気付くというストーリーのこのミュージカルで、チョ・グォンは一番年下で底抜けに明るいゲイを演じている。

 ミュージカル出演経験が『ジーザス・クライスト・スーパースター』だけだったチョ・グォンだが、今回の作品で本格的なミュージカルの演技に到達した。劇中に何度も出てくる1980-90年代のヒットソングを見事に歌い、わずかな間もじっとしていられずに騒ぎまくる「陽気すぎ」な役をナチュラルにこなしている。「あらおネエさん、なんでこんなところに来てまでナンパしてんの?」と言いながら性転換者バーナデット役のチョ・ソンハとドタバタ言い争うシーンは思わず吹き出してしまった。バスの上に座り、ヴェルディのアリアを口パクしながら全身をよじりもだえるシーンや、ドナ・サマーの「ホット・スタッフ」を歌って女物の服に着替えるシーンは、まるでアダムという役が彼のために作られたもののように思えたほどだった。

ホーム TOP