「不安と恐怖はいつもあった」。しかし、現実は変えればそれまでだ。自らに対する信頼が最も重要だった。「どのような役を与えられてもできるという自信」が、今のハ・ジョンウという存在を可能にした根幹だ。

 俳優ハ・ジョンウが映画『群盗:民乱の時代』(監督ユン・ジョンビン、以下『群盗』)でスクリーンに戻ってきた。2005年の映画『許されざる者』から始まり、『ビースティ・ボーイズ』(08年)、『犯罪との戦争:悪い奴らの全盛時代』(11年)、そして『群盗』。ユン・ジョンビン監督と仕事をするのは4回目だ。

 「10年前の落馬事故で馬に対してトラウマ(心的外傷)があった」というハ・ジョンウ。新しい作品の台本を検討するたびに「騎馬シーンの気配がすると本を閉じていた」と語った。『群盗』は「西部劇」と称されるほど、広大な土地を駆けめぐる馬との呼吸が重要な映画だ。ハ・ジョンウは、8カ月間にわたる心理療法でトラウマを克服し、『群盗』を次の出演作にすることに決め、再びユン・ジョンビン監督とタッグを組んだ。知っている人だからというだけで決められないのが映画出演だ。『群盗』はハ・ジョンウにとってこれまでで一番深く、俳優として内面に向き合った作品だったと言えるかもしれない。

 ハ・ジョンウは『群盗』で庶民のリーダー「ドチ」を演じている。兄思いの妹(ハン・イェリ)と、息子のことを自分の体のように大切にする母(キム・ヘスク)を持ち、牛の屠殺(とさつ)をなりわいとするドチは、欲に目がくらんだ既得権者たちに翻弄(ほんろう)されている現実に反旗を翻した。「群盗」たちの頭となったドチは「民乱の時代」を切り開き、広げていく。

 ハ・ジョンウがドチという役を自分の中でこなしていくプロセスは、容易ではなかったという。痛快さのない今という時代、現実の代わりに『群盗』が感じさせてくれる痛快さは「おまけ」だ。実際に『群盗』は「徹底した娯楽映画」だ。思わず漏れてしまうクスクス笑いやはじけるような大爆笑を追求している。「言葉で笑わせて、ドタバタで笑わせて…どんな人も笑えるギャグが得意な」ハ・ジョンウだが、『群盗』の笑いのポイントを踏んでいく過程は、これまでとは違う経験だった。

 それは、バランスを取らなければならないからだ。「髪をそり、その上に特殊メイクでやけどのあとを付けたドチのビジュアルがあまりにも強烈だから、演技的にはオーバーにならないようにしようという思いが大きかった」と話すハ・ジョンウ。熱いアクションや切れ味を目指しながら、方言や荒々しい言葉遣い、感情表現などでは「減塩オーガニック・スタイル」を心掛けた。映画『ザ・テロ・ライブ』(13年)がワンマンショー、『犯罪との戦争:悪いやつらの全盛時代』が圧倒感、『ベルリンファイル』(12年)がカリスマ的なハ・ジョンウを見せてくれたとすれば、『群盗』は平凡さの美学を引き出した、ハ・ジョンウのための傑作と言える。

 試写会での『群盗』での反応は熱い。カン・ドンウォン、イ・ギョンヨン、イ・ソンミン、チョ・ジヌン、マ・ドンソクら演技派俳優たちの共演効果もあり、「さすがハ・ジョンウ」と絶賛されている。バランスの美しさを考えて撮影に臨んだハ・ジョンウの努力があらためて認められた形だ。

 「人は誰でも生まれながらの気質と才能がある」というハ・ジョンウだが、自分自身のことは「典型的な努力型」と話す。『群盗』でも「ハ・ジョンウが出る作品だから大ヒット間違いなし」と言われているのは、そうした努力がよく知られているからであり、汗は裏切らないという真理を人々が信じているからだ。しかも、ハ・ジョンウはその努力を適度に楽しみ、適度に苦しむ「すべ」を知っている。

 『群盗』の撮影前もその心構えは揺らがなかった。「蒸し暑い夏に顔にいろいろ塗ったり、頭を毎日そったり、ワンシーン撮影するためとてつもない照明装置を手抜きせずに設置したり、乗馬も上手じゃなきゃいけないし、アクションもかなり多いはず…」と予想していたハ・ジョンウは、1カ月間とにかく歩きながら「精神武装」したそうだ。普段から「週5日、一日12時間という撮影原則を守る」「食事は抜かない」「足湯は疲労回復のための必須アイテム」と、自己管理が徹底している。「人生が凝縮された演技ノート」を書くのが習慣になっている限り、どんなに大きな障害や難関にぶち当たっても、乗り越えられないということはなかった。

 『群盗』の撮影は、ハ・ジョンウにとって成長を確認できた時間だった。映画『ローラーコースター』『許三観売血記』で監督兼俳優を務めたおかげだ。俳優だけしていたときには気付かなかった監督の気持ちに、監督をやってみて気付いたという。『許三観売血記』では主演も務め、監督が俳優に求める演出とは何なのかが分かるようになった。だから、2014年のハ・ジョンウは「ユン・ジョンビン監督が会った4回のハ・ジョンウの中で一番理想的な俳優」になったし、2014年のユン・ジョンビン監督も、ハ・ジョンウにとって「成長し、新作で新しい物語ができる監督」になったわけだ。

 「適切なマナー」「遠回しに表現しない真剣さ」の力を知り、「真実こそ武器」と考えているハ・ジョンウは生まれながらにして魅力ある俳優だ。ハ・ジョンウを目標にする後輩たちに対し「本当にたくましく立派な双葉を持っている」と喜んでいる。今年もハ・ジョンウはそうやって「ハ・ジョンウ:縦横無尽の時代」を歩んでいく。

◆ハ・ジョンウ、グラビアギャラリー

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