強くて美しい男というのは果たしてこの世の中にどれくらいいるのだろうか。歳月が流れても変わらず魅力的な男…。俳優チョン・ウソン(41)にとって主演映画『神の一手』(チョ・ボムグ監督)は特別な作品になりそうだ。変わらぬルックスにパワーアップしたアクション、代わりになる俳優はあり得ないという存在感。この作品はそうしたことをしっかりと確認させてくれた。

 1年前に公開された映画『監視者たち』がウォーミングアップ的な作品だとしたら、それより前に出演を決めていた『神の一手』はデビュー20周年を迎えたチョン・ウソンの、新たな20年を期待させる作品だ。

 『神の一手』は「静かなるスポーツ」囲碁に激しいアクションを組み合わせた映画だ。囲碁しか知らなかったプロ棋士テソクは兄の仇を取るため戦いの場に出る。

 映画でもそうだが、プライベートのチョン・ウソンも「上手(うわて=実力がある棋士、実力者)」だ。チョン・ウソンの「今」を映画にちなみ囲碁用語で読み解いてみた。

■着手…碁盤に石を置くこと

 『神の一手』は、俳優チョン・ウソンの演技に対する渇望が極限に達したときに出演を決めた作品だ。『グッド・バッド・ウィアード』(2008年)以降、意図せずして生じた6年間余りの空白が映画に対する渇望をいっそう強くした。『きみに微笑む雨』(09年)などに出演してはいたものの、韓国の映画ではなかった。チョン・ウソンは「ちょうど韓国映画市場が大きく成長し、新しい後輩たちも次々と登場していた時期なので、空白の時間がいっそう長く感じられた」と当時を振り返る。

 スクリーン復帰作は「観客が望むもので、自分も一番得意な作品」でなければならないと思った。そうした基準により選ばれたのがアクション映画『神の一手』だった。チョン・ウソンは17人対1人でのアクションを披露した元祖(『Beat』1997年)であり、『MUSA-武士-』(01年)や『監視者たち』といった数々のアクション映画で活躍してきた自他共に認める「アクションの上手」だ。長い腕や脚をフルに生かしたアクションは、パワフルさと共に流れるような美しさまで感じさせる。アクション監督のチョン・ドゥホンさんは「若いころのチョン・ウソンがどこに飛ぶか分からないラグビーボールだとしたら、今のチョン・ウソンは非常に柔らかいけれどよく弾むボールのようだ」と語った。映画の後半部にの詐欺賭博師サルス(イ・ボムス)に何度も素早く切りつけるシーンが、何の特殊効果も加えられていない実写だとしたら? 彼の選択は正しかったのだ。

■敗着…負けの決め手となる悪い石の置き方

 「人生は、上手にとっては遊び場であり、下手(したて=実力の劣る棋士)にとっては生き地獄だ」。『神の一手』で、賭け碁の名人「神様」(アン・ソンギ)が言うセリフだ。彼にとって人生は遊び場なのだろうか、それとも生き地獄なのだろうか。

 「子どものころからずっと『上手』だった。困難を否定し始めたら、人生は苦しくなる。否定に勝つ唯一の方法は認めることだ。『うちはどうしてこんなに貧乏なの?』なんて言わないで、『うちのお父さんが貧乏なんだ。自分が貧乏なんじゃなくて』という具合に現実を認めて受け入れたら気が楽になった」

 「悔やまれる一手」だとか、「敗着」だなんて思ったこともなかった。全ての一手で「行馬(石の形。勢力を広げて石を置くこと)」ができるのがチョン・ウソンの哲学だ。

■困馬(弱石)…敵に追われて危うい石

 『神の一手』は驚くべきことに封切り初日、ハリウッド大作映画『トランスフォーマー/ロストエイジ』を抑え興行成績1位に立った。感想を聞くと「『トランスフォーマー』が自滅したのでは」という冷静な答えが返ってきた。

 10日には同じくハリウッド大作『猿の惑星:新世紀』も公開され、新たなライバルの登場となった。だが、チョン・ウソンは少しも慌てていない。「今度も作品の力で勝てるだろう」と語った。

■シボリ…アタリを連打する攻撃

 チョン・ウソンの勢いはさらに増しそうだ。『神の一手』は布石に過ぎない。今秋にはラブストーリー『マダム・ペンドク』の公開を控えているし、現在は女優キム・ハヌルとのラブストーリー『私を忘れないで』の撮影中だ。チョン・ウソンは「出演がほぼ決まっている映画がもう1本ある」と語った。

 「最近、演技することが本当に面白い。現場にいるときが一番幸せ。体力は20-30代のときより今の方がある。若かったころ死に物狂いでやらなかったから、エネルギーが有り余っているのかも(笑)。これからは余裕ぶったりしない。レースが再開されたのだから、思いっきり走らなければ」

■神の一手…神の境地に達した、あるいは神が打った手

 最近、チョン・ウソンが一番よくされる質問は「人生にも『神の一手』があるとしたら、いつ打つか」というものだ。チョン・ウソンの答えは「きょう」だった。その理由は「きょう、どう決心して行動するかで、今までの人生が意味のあるものになったり、これからの人生を変えられたりできるからだ」という。

 インタビューを終えたチョン・ウソンは、デビュー20周年を記念して作ったカレンダーをプレゼントしてくれた。カレンダーの表紙には直筆で「今この瞬間にベストを…。2014年7月4日 チョン・ウソン」と書かれていた。

◆チョン・ウソン、グラビアギャラリー

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