ジャンルはアクション・ノワール。演じる役は殺し屋。俳優チャン・ドンゴンが最高の男くささをスクリーンで見せる。『アジョシ』のイ・ジョンボム監督が手掛けた映画『泣く男』でのことだ。

 チャン・ドンゴン演じる「ゴン」は幼ころ母親に捨てられて米国に一人残され、冷酷な殺し屋になった人物だ。闇の世界の暗殺指令を遂行しているさなかに誤って子どもを殺してしまう。死んだ子どもの母親モギョン(キム・ミニ)を抹殺せよという命令で母国に戻ったが、ずっと否定してきた母性の存在を知り葛藤(かっとう)する。

 実際、チャン・ドンゴンにとってアクション映画は腕に覚えがあるジャンルだ。映画俳優としてその名を刻みつけた『友ヘ チング』(2001年)をはじめ、『ブラザーフッド』(04年)、『PROMISE 無極』(05年)、『決闘の大地で』(10年)、『マイウェイ 12,000キロの真実』(11年)などに出演した。

 映画公開前、ソウル市鍾路区内のカフェでインタビューをしたチャン・ドンゴンは「もう殺し屋の役はしません」と宣言した。40歳を過ぎて、走ったり転がったりハードなアクションをしたりするのがキツイからではない。その理由を「『泣く男』はこれまで僕が出演してきた男の映画の結晶のような作品。わずかでも思い残すことがないようにという気持ちで演じました」と説明した。

 『泣く男』はタイトル通り、「強い男」よりも「弱い人間」の苦悩に焦点を当てている。こうしたことを観客にきちんと伝えるには、幼いころ母親に捨てられたゴンの欠乏感を説明することが絶対に必要だった。ところが、完成した作品ではゴンの成長過程がきちんと描かれていない。そのため、全てを犠牲にしてまで母親の情を守ろうとするゴンの行動が理解しにくいという声が多かった。

 これについてチャン・ドンゴンは「当初から心配していたことでした。もともと台本では、ゴンが捨てられたときの記憶がフラッシュバックするシーンが冒頭にあったのですが、完成した作品では編集の順序が変わっていて、僕が見ても『説明が付くのだろうか』と疑問を感じました。しかし、ゴンの心境に変化を起こしたのは子どもを殺した罪悪感ではありません。母性に対する発見の方が大きい。そういう点では、今の編集の方が正しかったという気もします」と語った。

 そして「初めて見たときは分かりませんでしたが、二度目に見たときにしっかり表現されていることに気付きました。二度見れば分かります」と遠まわしに「リピーターの勧め」をして笑わせた。

 チャン・ドンゴンは『泣く男』撮影のため、4-5カ月前からアクション・スクールでハードなトレーニングを積んできた。米国で育った殺し屋ということでセリフのほとんどが英語のため、英語のレッスンも同時に受けなければならなかった。チャン・ドンゴンは特に映画を撮るとき、自分自身を追い詰める印象が強い。出演作『紳士の品格』がそうだったように、力を抜いて演技したドラマが大ヒットしたのとは裏腹に、映画は努力に反して成果が挙がらないことが多かった。ハリウッド進出作だった『決闘の大地で』は韓国での入場者数が43万人にとどまり、300億ウォン(現在のレートで約30億円)をかけた大作韓国映画『マイウェイ』は214万人、韓中合作映画『危険な関係』は30万人で興行が止まった。

 チャン・ドンゴンは「ドラマはどうしても表現の程度に限界があるので、映画ではハードな役や強い役が多くなります。だからといって、僕はチャレンジを楽しいと思える人ではありません。むしろその逆で、新しいことは怖いです。でも、大切なのはそれと同じくらい好奇心も強いということ。好きなのも事実です」と、「人間チャン・ドンゴン」と「俳優チャン・ドンゴン」を分けて語った。

 最近の韓国映画大ヒット作はソン・ガンホ、ソル・ギョング、リュ・スンリョン、イ・ビョンホン、イ・ジョンジェ、チョン・ウソンら40代の男優たちがリードしている。偶然『泣く男』と同じ日に公開された韓国映画『ハイヒール』も主演俳優は40代のチャ・スンウォンだ。チャン・ドンゴンは次回作にも映画を考えている。「ライバル関係にある40代男優の中で、うらやましく思うスターがいますか」と問い掛けると、チャン・ドンゴンはためらうことなくソン・ガンホの名前を挙げた。

 「映画『弁護人』を見て、ソン・ガンホ先輩の演技力に感銘を受けました。誰もが認めざるを得なかったでしょう。一時、興行がうまくいかなかったこともありました。だとしても、『俳優ソン・ガンホ』に対する観客の期待は変わらないでしょう。ソン・ガンホ先輩の映画は、ヒットするとかしないとかが関係ない境地にまで達しています。うらやましい限りです」

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